複数の選択肢の中から適切な治療法を選択するための指南書
心不全患者の失敗しない弁膜症治療(電子版のみ)
内容
序文
主要目次
高齢化社会とともに増え続ける心不全の予防と治療は,現代社会的の重要な課題となっている.そして,心不全の原因となる心臓弁膜症も増え続けている.心臓弁膜症それ自体は古くから知られた循環器疾患であるが,現在,われわれが臨床で直面する心臓弁膜症の病像は,いわゆる古典的なリウマチ性弁膜症とは異なる面を持っている.まずは,高齢者や動脈硬化を背景とした硬化性大動脈弁狭窄症が増加していることである.心不全を発症する硬化性大動脈弁狭窄症では,冠動脈疾患や左室拡張不全の合併など複雑な病態を有するものが多い.また,虚血性心疾患の急性期の救命率が向上した反面,慢性期に機能性僧帽弁逆流症を合併して心不全の治療に難渋する症例もしばしば経験する.さらに,心房細動を有する高齢者が,三尖弁逆流症による右心不全で入退院を繰り返す例も増加している.こうした心不全を発症した心臓弁膜症の治療にあたっては,その複雑な病態を理解して,正しい治療戦略を立てる必要がある.
また,心不全を発症する心臓弁膜症患者の問題点の一つは,高齢者が多いうえに高血圧や冠動脈疾患,糖尿病,腎不全などの合併症を有し,開心術のリスクが高い例が多いということである.こうした高リスク症例の増加に対応するように,カテーテル治療などの新たな治療の開発もすすんでいる.高リスクな弁膜症患者の侵襲的治療にあたっては,弁膜症の重症度を的確に評価するのはもちろんのこと,包括的に全身状態を判断し,複数の選択肢の中から適切な治療法を選択しなければならない.
こうした現代の心臓弁膜症においてはエビデンスが蓄積しつつあるが,まだ十分でない領域も多く残っている.本書では,心不全診療の中で特に問題となることの多い心臓弁膜症を中心に取り上げ,その病態と治療について,臨床の最前線で活躍されているエキスパートの先生方に解説していただいた.特にいまだエビデンスが十分でない領域については,エキスパートの先生方の経験が活かされた内容となっている.是非とも本書を活用し,明日からの心不全診療の向上に役立てていただければ幸いである.
2017年3月
大門雅夫
1 心不全に合併する心臓弁膜症とは
2 心臓弁膜症患者の手術リスク,frailtyを評価する
3 心臓弁膜症の手術適応の基本的な考え方
4 バイオマーカーや運動負荷テストは心臓弁膜症の評価に有用か?
5 心臓弁膜症の侵襲的治療にガイドラインを活かす
II 増え続ける大動脈弁狭窄症による心不全を理解する
1 超高齢社会における大動脈弁狭窄症による心不全の病態
2 大動脈弁狭窄症の重症度を評価する
コラム 大動脈弁狭窄症におけるCT検査の意義とは?
III 大動脈弁狭窄症の治療
1 この大動脈弁狭窄症,手術またはTAVIは可能ですか?
2 TAVIの合併症と術後管理
3 心不全を起こした大動脈弁狭窄症の内科的管理
コラム 大動脈弁狭窄症治療におけるハートチームの意義とは?
IV 心不全と僧帽弁逆流
1 一次性と機能性僧帽弁逆流の違いを識る
2 心エコーで僧帽弁逆流を評価する
コラム 左房拡大は僧帽弁逆流の原因か?
V 僧帽弁逆流の治療
1 一次性僧帽弁逆流の治療
2 機能性僧帽弁逆流に対する内科的治療
3 機能性僧帽弁逆流に対する形成術とその問題点
4 僧帽弁逆流に対する経カテーテル治療の現状と展望
VI その他の弁膜症
1 三尖弁逆流と心不全-三尖弁単独の手術を考える時-