徳島から発信!心エコー図検査における“オキテ”100選
心エコー図検査 徳大超音波センターのオキテ100
内容
序文
主要目次
書評
徳島大学病院超音波センターは,診療科横断的に超音波検査を施行する部門として,2000年に設立されました.病院全体の超音波検査を集約化した“超音波センター”は,当時の日本には皆無であり,先進的な取り組みでした.その前身は,徳島大学第二内科の心エコー室と腹部エコー室で,開設されたばかりの内視鏡センターに倣って,両者をまとめた“超音波センター”をつくりました.その後,徳島大学では診療科が再編され,超音波センターはすべての診療科が利用できる部門として,現在に至っています.
当センターでは,臨床,研究,教育という大学病院の三本柱を実践しています.教育面においては,積極的に院外からソノグラファーの研修を受け入れ,これまでに30名余のソノグラファーが巣立ち,多くの技師が認定超音波検査士の資格を取得しました.また,毎年医学部保健学科の大学院生1~2名が所属し,修士課程を修了します.医学博士を修得した臨床検査技師もすでに2名います.2014年には“心血管エコー検査修得プログラム”という1~2年間の研修プログラムを開始し,沖縄,東京など遠方からも研修生が来ています.さらに,院外医師の研修も柔軟に受け入れており,これまでに多くの医師がエコーの技術を習得しました.2015年からは,初期研修医がローテーションで超音波研修(1~2ヵ月)を選択できるようにしました.このように,センターには常時,エコーの初学者がいるというのが当たり前という状態です.
エコーを勉強しようという若い人が多くて活気があるのはよいのですが,教える立場からすれば,何度も,同じことを教えることになります.指導の基本は,単純・反復・繰り返しと言いますから,それを厭ってはいけませんが,大変なことには変わりありません.そこで,当センターで心エコー図の研修をする技師,医師に知っておいてもらいたいこと,いつも口を酸っぱくして言っていることを,「心エコー図検査 徳大超音波センターのオキテ100」として1冊の本にまとめることにしました.
本書のオキテは,徳島大学病院超音波センターでの決まりごとです.ですから,それがすべての施設で正しいとは限りません.各施設にはそれぞれ固有の事情や,今までの伝統,お作法があると思います.それを大事にしたうえでこの本を役に立てていただきたいと思います.心エコー図を勉強しようというすべての方に役立つエッセンスが集約されていると自負しています.偏った考えや,極論になっている項目もあるでしょう.私たちはそれが正しいと信じてやっていますが,もし,そうじゃない,それはおかしい,ということがあれば,忌憚のないご意見をいただければ幸いです.
2019年2月
徳島大学大学院医歯薬学研究部地域循環器内科学
徳島大学病院超音波センター
山田博胤
1 超音波診断装置は初期設定のまま使ってはいけない
2 爪を伸ばしたままで検査をしてはいけない
3 フルネームを確認せずに検査を始めてはいけない
4 前回のレポートを見ずに検査を始めてはいけない
5 紹介元のレポート,前回のレポートの結果を鵜呑みにしてはいけない
6 心電図を見ずに検査を始めてはいけない
7 聴診をせずに検査を始めてはいけない
8 身長,体重を測らずに検査をしてはいけない
9 血圧を測定せずに検査をしてはいけない
10 患者が退出する前に,データが保存されているか確認しないといけない
11 検査が終わったら,プローブのゼリーを拭き取らないといけない
12 検査が終わったら,必ずフリーズボタンを押さなければいけない
13 装置が壊れたり不具合があった場合,放置してはいけない
14 日常点検せずに超音波装置を使ってはいけない
15 往診の依頼を安易に受けてはいけない
16 超音波検査の技術は見て盗まなければいけない
17 ソノグラファーはジェネラリストでなければいけない
第2章 心エコー図検査の基礎知識
18 v=f・λを知らずに検査をしてはいけない
19 超音波のアーチファクトを知らずに,検査をしてはいけない
20 パルスドプラ法と連続波ドプラ法の違いを知らずに検査をしてはいけない
21 冠動脈の走行を知らずに検査をしてはいけない
22 主要ガイドラインを読まずに検査をしてはいけない
23 正常妊娠による血行動態の変化を知らずに検査をしてはいけない
24 人工弁の種類を知らずに検査をしてはいけない
25 透析のタイミングを聞かずに血行動態の評価をしてはいけない
第3章 検査施行時のオキテ
26 目的を知らずに検査をしてはいけない
27 パニック所見があったら,検査を続けてはいけない
28 患者を見ずに検査を続けてはいけない
29 患者の息止めを行うとき,検査者も息をしてはいけない
30 深呼吸をさせて息止めをしてはいけない
31 心雑音があれば,その原因がわかるまで検査を終わってはいけない
32 マニュアルどおりの検査で終わってはいけない
33 むやみやたらに動画をキャプチャーしてはいけない
34 ソノグラファーが検査結果を説明してはいけない
第4章 計測法のオキテ
35 Mモード法でEFを計算してはいけない
36 S字状中隔心では,Mモード法で左室径を計測してはいけない
37 左房径だけで,左房サイズを評価してはいけない
38 左房容積を計測するとき,左心耳や肺静脈を含めてはいけない
39 肥大型心筋症でもないのに,非対称性肥大を作ってはいけない
40 左室壁厚だけで左室肥大を診断してはいけない
41 Eyeball EFと合わないEF計測値を記載してはいけない
42 EF計測時のトレースは,心周期を通じて心尖部がずれてはいけない
43 計測値が異常であれば,その理由を考えないままなおざりにしてはいけない
44 ドプラ波形のヒゲを取ってはいけない
45 心エコー図検査では,ドプラ法の角度補正を使ってはいけない
46 肺静脈血流速波形を記録するときに,サンプルボリュームを左房内に置いてはいけない
47 重度の大動脈弁狭窄,右側臥位にする手間を惜しんではいけない
48 左室流出路狭窄があるとき,連続の式で大動脈弁口面積を算出してはいけない
49 左房側のValsalva洞が膨れている断面で,大動脈径を計測してはいけない
50 通常の心尖部四腔断面で右室サイズを評価してはいけない
51 下大静脈は長軸断面だけで計測してはいけない
第5章 診断のオキテ
52 心エコー図検査と言うが,心臓だけを見てはいけない
53 EFが正常でも,「左室収縮能が正常である」と言ってはいけない
54 右室流出路を見ずに,肺高血圧と言ってはいけない
55 TRPGが正常でも,肺高血圧がないと言ってはいけない
56 若年だからと言ってE/Aを安易に正常パターンとしてはいけない
57 高齢者のE/Aを安易に偽正常化パターンと解釈してはいけない
58 E/e′を鵜呑みにしてはいけない
59 E/e′の高値だけで「左室拡張能の低下」と言ってはいけない
60 心エコードプラ法の所見だけで心不全と診断してはいけない
61 肥大型心筋症を疑えば,最大壁厚を記載しないといけない
62 若年の高血圧性肥大心例では,腎動脈を見ずに検査を終わってはいけない
63 高齢の高血圧例では,腹部大動脈を見なければいけない
64 中等度以上の僧帽弁逆流があるときは,その成因を記載しないといけない
65 高度の僧帽弁輪石灰化があるとき,左室拡張能を評価してはいけない
66 聴診できない軽度の弁逆流を診断名に書いてはいけない
67 壁に沿って吹く逆流を過小評価してはいけない
68 弁膜症の重症度は,一つの指標だけで判断してはいけない
69 重度僧帽弁逆流でEF=55〜60%のとき,「左室収縮能は保たれている」と書いてはいけない
70 中等度以上の大動脈弁逆流で,下行大動脈の血流速波形を確認せずに重症度判定をしてはいけない
71 中等度以上の三尖弁逆流では,肝静脈血流速波形を見ずに重症度判定をしてはいけない
72 僧帽弁狭窄症では,弁下病変を見忘れてはいけない
73 左室局所壁運動異常を一断面だけで判定してはいけない
74 急性下壁梗塞では,右室壁運動を観察しないといけない
75 たこつぼ型心筋症を疑っても,冠動脈疾患を否定してはいけない
76 経胸壁心エコー図検査で血栓や疣腫の存在を否定してはいけない
77 心膜液の量がわずかだからと言って,心タンポナーデを否定してはいけない
78 心膜液はあるかないかを見るだけではいけない
79 肺高血圧例で心房中隔欠損を見逃してはいけない
80 心尖部の壁運動低下例で,心尖部血栓を見逃してはいけない
81 シャントが否定できなければ,マイクロバブルテストの手間を惜しんではいけない
82 右房内のひも状構造を腫瘍や血栓と間違えてはいけない
83 房室間溝の脂肪を腫瘍と間違えてはいけない
84 見た目と合わないQp/Qsの値をそのまま記載してはいけない
85 三尖弁が離開している場合はTRPGを鵜呑みにしてはいけない
86 壁運動異常がないからと言って,虚血を否定してはいけない
87 診断に迷った場合,負荷心エコー図検査をためらってはいけない
88 ガイドラインを鵜呑みにしてはいけない
89 心エコー図検査ですべてがわかると思ってはいけない
第6章 レポート記載のオキテ
90 計測値に意味のない小数点以下を記載してはいけない
91 オーダーの依頼内容に対する回答がない報告書を作成してはいけない
92 レポートに誤字があってはいけない
93 レポートでやたらと略語を使ってはいけない
94 “Almost normal”を漫然と使ってはいけない
95 「観察できた範囲では…」を使ってはいけない
96 診断名を適当な順番で記載してはいけない
97 異常所見がなくても,「手術に際して問題はありません」と返してはいけない
98 検査当日にレポートを書かないまま帰ってはいけない
99 一度直されたことは,二度と同じ間違いをしてはいけない
100 やりっぱなしの検査ではいけない
文献
索引
COLUMN
音中模索 ~ECHOはじめて物語~
第1話 心エコー図と私
第2話 組織ドプラ法
第3話 Torsion
第4話 ポケットエコー
第5話 負荷心エコー図
第6話 Onco-Cardiology:腫瘍循環器学
第7話 Point-of-Care超音波
第8話 エコーセミナー
Dr.Kの研究日誌
その1 ヒトはなぜ論文を書くのか
その2 論文作成のコツ~直観力~
その3 論文作成のコツ~歴史に学ぼう~
その4 What is your statistical analysis software?
その5 「論文の書き方」へのツッコミ
その6 AI(人工知能)が描くエコーの未来
ソノグラファー談義
1 検査士試験対策,試験の前日は飲み会
2 どうやって工学,超音波の基礎を勉強するか
3 エコーベッドは専用がいい?
4 検査技師が博士号を取る意味
5 センター運営?仕事の分担
6 心電図の電極,シール?クリップ?
●徳島大学病院超音波センターでの研修を振り返って
●徳島大学病院超音波センターで研修して
心エコー図検査を適正に行い正しく診断するためには,必ず心得ておくべき決まり事というものがある.例えば,検査前に心電図所見を確認して聴診を行うこと,検査目的や前回のレポートを必ず確認することなどである.こうした心エコーのお作法はプローブを持つ前に身につけておくべきものであり,挙げれば切りがないくらいに沢山あるのだが,実は教科書にはあまり書いていないことが多い.なぜなら,ある程度現場で経験を積めば,こうした事はいずれ当たり前の「オキテ」になるからである.この「オキテ」を身につけるために,新人は現場で日々研鑽を積んでいくことになる.
ところがその都度言われても,この「オキテ」をすべて正しく身につけるのは容易ではない.なぜならば,この「オキテ」がとても多い上に,系統立ててその理由まで説明を受けることが少ないからである.きっと皆様の中にも,大切な作法であるはずの「オキテ」にモヤモヤした思いを抱いたことのある方も多いことと思う.
このたび,何とこの心エコー図検査の「オキテ」をまとめた1冊の本が出版された.編集は徳島大学超音波センターの山田博胤先生と西尾 進先生である.お二人とも私とは旧知の仲で,臨床能力,学術面ともに申し分の無い実力の持ち主である.特に心エコー図の的確な診断については有名で,これまでの全国から多くの研修生が徳島大学超音波センターの門を叩いている.本を手に取ると,その徳島大学超音波センターにおける「オキテ」が,とてもわかりやすく100の項目に分けて解説してある.例えば,上述した項目の他,「身長,体重を測らずに検査をしてはいけない」「検査が終わったら,必ずフリーズボタンを押さなければいけない」「通常の心尖部四腔断面で右室サイズを評価してはいけない」など,普段私が心エコー室で教えている「オキテ」と同じことが解説してある.つまり,この本に書いてある「オキテ」は,全国どこの心エコー室でも身につけておくべき共通のものである.心エコー図検査の初心者,あるいは経験者でもこの「オキテ」に少しでも不安を持つ人は,是非一度本書を熟読し,当たり前の「オキテ」について学んでいただければと願う.
(「心エコー」2019年9月号(20巻9号)掲載)