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リハの視点を欠くことなく,認知症のケアを進めるために

認知症の標準的解釈とリハビリテーション介入

カバー写真
  • 著:金谷さとみ(菅間記念病院在宅総合ケアセンターセンター長)
  • B5判・172頁
  • ISBN 978-4-8306-4555-6
  • 2017年5月9日発行
定価 3,300 円 (本体 3,000円 + 税10%)
あり
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内容

序文

主要目次

長年,認知症に向き合い奮闘してきた著者により,そのリハビリテーション介入における基礎知識から臨床実践を詳細に解説.治療効果が現れにくいとされる認知症のリハビリテーションに悩むセラピストが求める情報が体系的に網羅されている.付録には実践に必ず役立つ著者オリジナルの認知症リハビリテーション評価票も掲載.認知症ケア・リハを行うセラピスト必読の一冊.
はじめに

 「痴呆」と呼ばれていた時代,リハビリテーション専門職の数は非常に少なく,通常のリハビリテーション病院では脳卒中や脊髄損傷や難病が優先され,失行・失認などのリハビリテーションは行われていたものの,認知症のリハビリテーションは積極的に行われてはいなかった.一般的には認知症に対する偏見も存在した.その頃に比べると,現在は国民の多くが認知症を正しく理解し,認知症のケアも適切に提供されるようになった.なかでも介護保険制度導入後のグループホームの急激な拡充は,認知症施策のなかで最も大きな役割を果たしたといっても過言ではない.また,認知症の予防施策も科学的根拠に基づき的確に実施され,ここ数年で認知症予防に対する国民の意識は大きく変化したと実感できる.過去を知る者にとって,認知症対策のための国の努力は万全であったといえよう.
 現在,リハビリテーション専門職の養成校の増加とともに,若い理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の人口が増え,それとともに認知症のリハビリテーションにかかわる専門職人口は圧倒的に増えている.しかし,認知症リハビリテーションの提供内容の整備は十分とはいえない状況にある.その理由のひとつに,認知症が進行すればするほどエビデンス重視の流れとリハビリテーションの効果が合致しないことがあげられる.では,効果とは記憶機能が向上することなのか,落ち着いて生活できることなのか,効果があればそれで良いのか…….認知症はケアの役割が大きいが,それがすべてとも言い切れず,答えも決め手も定まらないことが多い.認知症の人は周囲の環境すべてが敏感に影響するという点において,認知症のケアは子育てと似ている.ただし,子どものようにすべての鍵を握る「母親」はいない.双方に共通することは,昨日解決したとしても,今日はまた新たな問題が生まれ,日々の変化に対応し,奮闘し続けても「これで良い.」という答えがない部分である.
 認知症の方々とかかわり続け,筆者も何一つ答えらしきものを見つけてはいないが,適切なケアの提供のなかにあってもリハビリテーションの視点は欠かしてはならないことだけは言い切れる.認知症の人の家族,親族,友人等だけでなく,さまざまな視点を持った複数の専門職が協力してかかわり,あらゆる局面において,さまざまなタイミングでさまざまなケアやリハビリテーションを提供し続けることが,認知症のリハビリテーションではないかと考える.多くの方々が認知症リハビリテーションの一端を担えるよう,そのための何らかの参考として本書を活用してほしい.

2017年4月
 金谷さとみ
I まず押さえるべき認知症の標準的解釈
 1 認知症の背景
 2 認知症の診断と治療概要
 3 軽度認知障害(MCI)
 4 認知症の疾患別タイプと特徴
II 認知症の症候をどう捉えるか
 1 認知症の症候の捉え方
 2 認知機能障害(中核症状)
 3 BPSD(周辺症状)
 4 ギャップとズレを埋められず…
III 認知症の神経学的所見と運動障害
 1 認知症患者にみられる神経学的所見
 2 認知症患者の運動障害
IV 認知症患者の全体像を捉える―評価に必要な情報収集―
 1 全体像をつかむ
 2 病歴の聴取で現在までの経過を明らかにする
 3 一度会ってから情報収集を
 4 本人,家族,介護者からの情報収集
 5 相手の立場になれるか
V 認知症評価をどう進めるか
 1 認知症評価の考え方
 2 認知症のリハビリテーション評価
 3 各種評価尺度について
VI 評価を介入にどうつなげるか
 1 評価とアプローチ・支援との関係性
 2 経過をたどる
VII 認知症患者の健康管理と支援
 1 認知症の人の健康管理の重要性
 2 服薬について
 3 水分・食事の摂取量
 4 排尿・排便に関すること
 5 睡 眠
 6 運動の大切さ
 7 変化を見逃さない
 8 低栄養状態,褥瘡,浮腫など
 9 清潔の保持
VIII 認知症患者の生活環境と支援
 1 どのような環境が良いか
 2 風通しの良い環境
 3 表示やメモリーエイドなどの工夫
 4 高照度光の影響
 5 環境の変化に立ち向かう力
IX 患者本人に対するセラピストの接し方
 1 認知症高齢者を知る
 2 対応の基本姿勢
 3 会話するとき
 4 判断と説得と否定
 5 本人が語る要望は本当の望みなのか
 6 拒否的な態度に対して
 7 最も重要な対人交流
 8 見透かされている
X 家族・介護者に対するセラピストのかかわり方
 1 家族支援の重要性
 2 家族の心理
 3 ピアサポート(peer support)
 4 こんなときどう支えるか
 5 介護する家族にインセンティブを
XI 活動能力への支援とアプローチ
 1 要介護高齢者の状態と活動
 2 認知症と活動
 3 活動性を高める目的は何か
 4 活動性を高める支援とアプローチ
XII IADL・ADL能力への支援とアプローチ
 1 高齢者のADLとIADLの障害について
 2 認知症とADL/IADL
 3 IADL/ADLへの支援とアプローチ
 4 日常生活に支障をきたしても…
XIII 認知機能へのアプローチ
 1 認知機能低下の過程と保たれる能力
 2 アプローチの際の基本姿勢
 3 さまざまな非薬物療法とリハビリテーション
 4 認知機能へのアプローチの実際
XIV 運動機能へのアプローチ
 1 運動機能と活動
 2 「歩行」は最も馴染みやすい運動
 3 運動機能へのアプローチの実際
 4 リハビリテーションを阻害する症状と転換期
 5 転倒への配慮
付記BPSDへの対応について
 認知症リハビリテーション評価票
 認知症リハビリテーション評価票(練習用)
さいごに
文 献
索 引