中小病院でも大病院でも通用する感染症診療の考え方,ここにあります!
ジェネラリストのための臨床感染症入門
内容
序文
主要目次
臨床医である以上,感染症はどの分野に進んでも必ず対峙する疾患ですが,国内で感染症学講座を設置している大学が少ない影響か,医学部で感染症学を系統的に教わる機会が少ない状況が続いています.それを反映してか,2019年時点で感染症専門医は全国で1,490人と, 病理専門医(2,538人)やリハビリテーション専門医(1,888人)と比べても極めて希少種であることがわかります.
よって,現時点では感染症で迷ったからと言ってすぐに専門医を頼ることはほとんど叶わず,どんな臨床医であっても,ある程度自分で対処しなければならない現実があります.幸い,ここ十数年の間に,日本語で読める臨床感染症の良書が激増し,ひとりでもある程度勉強できるようにはなりました.一方で,世に出ている感染症の著書は主に院内に細菌検査室があることが前提で書かれていることが多く,院内に細菌検査室がないような,恵まれない医療過疎地域の病院で奮闘する臨床医には少しズレた部分もありました.
私自身,院内に細菌検査室がない,でも周囲に病院が少ないため救急患者がドンドン入院してくる,といったよくある医療過疎地域で診療に従事していた経験がありますが,そこから得たものは,細菌検査室のあるなしに関わらず,やはり臨床感染症の基本を愚直に遂行することが最善のアウトカムにつながる,ということでした.
本書の対象は感染症のエキスパートを目指す人,というよりは,これから感染症の勉強を始める医学生や初期研修医,または内科や総合診療の専攻医(後期研修医)の皆さんを想定しています.また,第2・3章では細菌検査室での流れを解説していますので,細菌検査にあまり馴染みのない方がいましたら,細菌検査室とそこで働く細菌検査担当技師(※正確には「臨床微生物検査技師」)の凄さをぜひとも垣間見て頂きたいと思います.また,本書は感染症の各項目を100% 完璧に理解することを目標にはしていません(し,カバーしていません).それよりは,本書を通じて基本的な内容をマスターし,更なるステップを踏み出す足掛かりにして頂きたいと思っています.
執筆していく中で気をつけたことは,単なる知識の羅列にならないこと,なるべく実践的な内容になるよう(明日から使えるよう)に心がけることでした.臨床的に重要なことも,文字にすると途端に臨場感がなくなりがちですが,そこは執筆開始当時に初期研修医だったやよい先生,総合診療専攻医だったひかる先生との実際のやり取りの中に組み込むことで,よりリアルな臨場感が伝わるよう意識しました.
本書が学習者の学びになればそれはとても嬉しいことですし,さらに,若手医師への感染症の指導に疲れた指導医が「いいから,とりあえずこれ読んでみたら?」と言えるようなモノになれば,それはもう望外の喜びです.いずれにせよ,気軽に感染症を勉強したいと思っているすべての皆さんに何らかの形でお役に立てれば幸いです.
最後に,本書の作成にあたり,異常なまでに締め切りを引き延ばしまくり,およそ3年もの間辛抱強くお付き合い頂いた文光堂の佐藤真二氏にはお詫びを,そしてこれまで関わってくださった多くの方々に深く感謝を申し上げます.
2022年1月
日本を代表するパワースポットである
伊勢神宮に最も近い病院の医局より思いを込めて
谷崎隆太郎
A 感染症診療には原則がある
1 発熱患者を診たら何があってもまず感染症から考える
2 「感染症診療のロジック」に学ぶ基本的な考え方
〔COLUMN〕略語で覚える感染症診療,POMA-R !
B STEP1 患者背景Patient's backgroundを考える
1 患者背景って……?
2 “渡航歴”という背景
3 “免疫不全”という背景
4 市中感染か医療関連感染かという背景
5 患者背景は雄弁である
〔もっと知りたい!〕いつ海外渡航歴を聴取すべきか
〔もっと知りたい!〕患者背景
C STEP2 問題の臓器Organを考える
1 問診と身体診察で臓器特異的な症状を探す
2 問診と身体診察ではわからないこともある
〔COLUMN〕筆者の失敗談~臓器編~
〔もっと知りたい!〕敗血症≠菌血症
〔もっと知りたい!〕それぞれのカテーテル関連血流感染症とその発生頻度
D STEP3 原因微生物Micro-organismを考える
1 傾向その1:ウイルス感染症は多臓器,細菌感染症は単一臓器の症状をきたすことが多い
2 傾向その2:横隔膜より上の細菌感染症はグラム陽性球菌,横隔膜より下はグラム陰性桿菌,皮膚科と整形外科領域はブドウ球菌と連鎖球菌
3 傾向その3:医療関連感染では耐性菌の頻度が上がる
〔もっと知りたい!〕腸内細菌目細菌とSPACEの関係
〔MEMO〕患者背景に免疫不全がある場合の原因微生物
4 傾向その4:1回良くなった後にまた悪くなった,という二峰性の経過は細菌性を示唆する
E STEP4 適切に治療Antimicrobial agents(Antibiotics)する
1 感染症ごとの第一選択薬を選ぶ
2 適切な量・投与回数で投与する
3 感受性試験結果は第一選択薬が感受性かどうかを確認し,なるべく狭域のものを選ぶ
〔もっと知りたい!〕カルバペネム耐性菌とは?
4 ざっくりわかる抗菌薬
〔MEMO〕トラフ値 vs. AUC/MIC
〔MEMO〕腎機能障害時のリネゾリドの投与量
〔もっと知りたい!〕セフトリアキソンの投与方法は?
F STEP5 適切に経過観察Reassessmentする
1 5つのSTEPの1~4をみてみよう
2 良くなっているのか,いないのか――assessmentする
3 評価に困ったら診断に立ち返る
4 “Re”assessment――繰り返してこその経過観察
5 全身と局所――2つの観点
6 客観的な評価,定量的な評価
7 グラム染色は最強の評価ツールにもなる
8 経過観察の2つのコツ
〔COLUMN〕「解釈ではなく事実を述べるべき」なのはどのようなときか
9 抗菌薬を投与した後に考えること
〔COLUMN〕プレゼンテーションのトレーニング
〔COLUMN〕初学者と熟練者の違い
G 5つのSTEPの流れとは逆向きの裏技
1 微生物から臓器がわかることもある
2 治療経過から微生物がわかることもある
〔もっと知りたい!〕静注抗菌薬を経口抗菌薬に変更するタイミングは?
〔COLUMN〕地域住民のリアルな受療行動とは?
2章 感染症検査各論
A グラム染色
1 そもそもグラム染色はどんなときに役立つのか
2 グラム染色の大まかな流れ
3 痰のグラム染色の手順と観察の基本
4 喀痰グラム染色で鑑別できる菌種
5 喀痰グラム染色は“使える”か?
6 尿のグラム染色の手順
7 尿グラム染色で鑑別できる菌種
8 治療効果判定のためのグラム染色
9 検体の採取保存方法について
B 血液培養検査
1 血液培養検査の意義
2 血液培養検査の手順
3 血液培養を採取すべきタイミング
4 血培を採取すべきか――症例から考える
〔COLUMN〕どうしても不要な血液培養検査を省略したいあなたへ~感染症診療のChoosing Wisely~
3章 感染症診療における細菌検査室の役割
A 細菌検査室がある場合とない場合で何が変わる?
B 細菌検査室がある場合
1 培養検査はどのように行われる?
2 有益な情報をタイムリーに得られる
3 とは言え,“基本”の大切さは揺るがない
C 細菌検査室がない場合
1 培養検査,何日くらいかかる?
2 つきまとう検体不良
3 得られる情報には限界がある
4 かなり不利な環境ではあるけれど
〔COLUMN〕感染症診療における検査について
4章 ケーススタディ―せっかくだから,POMA-Rに沿って考えてみよう
case 1
case 2
case 3
case 4
case 5
case 6
巻末付録
本書に出てくる抗菌薬名称および略称
本書で使われる感染症関連略称
本書で使われる臨床検査名および略称
索 引