モビリティ(移動性)獲得を支援するための考え方と疾患の特徴に応じた具体的・先進的な支援方法を解説!
作業療法とドライブマネジメント
内容
序文
主要目次
対象者の生活において,モビリティ(移動性)が確保されていることは重要であり,それは多くの地域では自ら自動車の運転を行うことにより保障されていると言っても過言ではない.自動車の運転は「認知・予測・判断・操作」を繰り返す複合的な課題であり,作業療法士の専門性が発揮できる作業である.また,自動車の運転はわれわれ作業療法士が支援する様々なIADLの中でも最も課題難易度の高い活動の一つである.それゆえ支援には一定の知識・技術を要するものの,従来その知識を得るには自ら論文や報告を探す必要があった.
この分野を推進するために,作業療法士の,作業療法士による,作業療法士のための書籍が必要だと感じていたところ,2016年春に「運転と作業療法研究会」の世話人でもある澤田辰徳先生からこの本の編集にお誘いいただいた.しかし当時の私は日本作業療法士協会内に「運転と作業療法特設委員会」を立ち上げたばかりであり,自身の能力を考えて一度は断った.しかし,「あの古びた病院のしがないOT2人が本を出すなんて一種の夢じゃないですか」という一文が私の心を大きく動かした.思えば彼と私は,若き日に対象者に必要な支援は何かと共に悩み,「いつかまた一緒に仕事をする日が来る」と信じて別々の道を歩んだ.仕事に追われ,研究以前に学会参加すら興味がなかった当時の私にスライドの作り方や発表の工夫などを教え,親身に導いてくださったのは,ほかならぬ澤田先生である.今ここで応えなければ二度と機会はないと思い,「その夢乗った!」と返信した.この本を世に出すことができたのは彼の功績である.
本書の特徴は,①運転という作業のみならず,自動車運転に必要となる周辺作業や,自動車運転に代わる作業などを含む「ドライブマネジメント」という新しい概念を提案していること,②運転支援および研究の第一線で活躍している作業療法士により執筆されていること,③運転という作業について幅広い情報が整理され,かつ多くの事例が紹介されていること,である.それゆえ,運転に初めて取り組もうとする作業療法士にとって,基本的事項を押さえ,運転適性評価を行うための情報のみならず,モビリティを支援するための考え方,対象者や疾患の特徴に応じた具体的・先進的な支援方法を知ることができる.
本書の完成には「運転と作業療法研究会」世話人や参加者を中心とした皆様に多大なご協力を頂いた.加えて「しがないOT」であるわれわれを支援してくださる関係者の皆様に感謝申し上げる.本書を通して,作業療法士をはじめとする様々な読者の取り組みにより,対象者のモビリティ獲得による笑顔と,安全な交通社会が得られることを心より願っている.
仁戸名キャンパスにて
2018年8月
藤田佳男
1 ドライブマネジメントの概論
2 自動車運転に関する理論
3 自動車運転に関する法制度
4 運転と社会的行動
II 運転技能の評価
1 運転適性評価の概論
2 運転支援のための情報提供と面接
3 視知覚の評価
4 身体機能の評価
5 認知機能の評価
6 脳卒中の運転の評価
7 停止した車での評価
8 ドライビングシミュレーターでの評価
9 実車評価(構内)
10 実車評価(路上)
III 運転の作業療法的支援
1 身体機能における自動車運転支援
2 認知機能における自動車運転支援
3 心理・家族教育
4 代替手段の提案
IV ドライブマネジメントにおける連携
1 医療職との連携
2 自動車教習所との連携
3 公安委員会との連携
4 作業療法士同士の連携
5 行政との連携
V 特殊な状況での運転支援
1 普通自動車以外の運転支援
2 海外における運転作業療法
VI 作業療法におけるドライブマネジメントシステムの実際
1 井野辺病院
2 新潟リハビリテーション病院
3 名古屋市総合リハビリテーションセンター
4 国立障害者リハビリテーションセンター
5 ワークセンター大きな木
6 中伊豆リハビリテーションセンター
7 岡山の取り組み
8 四国の取り組み
VII 作業療法におけるドライブマネジメントの実例
1 脳血管障害による片麻痺
2 脳血管障害による高次脳機能障害
3 頭部外傷
4 切断
5 MCI を疑う健常高齢者
6 神経筋疾患(パーキンソン病)
7 脳性麻痺
8 脊髄損傷
索引