脳腫瘍の病理診断における座右の書!新知見を盛り込んだ改訂版!!
腫瘍病理鑑別診断アトラス
脳腫瘍第2版
内容
序文
主要目次
脳腫瘍の分類は伝統的に中枢神経系を構成する細胞との形態学的類似性や発生分化を基盤としたものであったが,脳腫瘍の分子遺伝学的知見の蓄積に伴って,2016年に刊行されたWHO脳腫瘍分類改訂第4版では腫瘍名に遺伝子異常が書き込まれたものがいくつか登場し,腫瘍概念と遺伝子異常が密接に結びつくようになった.この方向性は2021年のWHO分類第5版においても一層推し進められ,もはや後戻りすることのない確固たる潮流になったといえるだろう.膠腫をびまん性と限局性に再編し,びまん性膠腫を成人型と小児型に区別し,小児型びまん性膠腫をさらに低悪性度と高悪性度に分けるといった変更は,IDH変異の発見以降に判明したさまざまな分子遺伝学的知見に負うところが大きい.そうした流れを受けて新知見を取り入れた「腫瘍病理鑑別診断アトラス 脳腫瘍 第2版」を上梓する運びとなった.
本書の第1部では2021年WHO分類の要点とその基礎である脳腫瘍の遺伝学的異常を解説し,さらに脳腫瘍の診療において欠くことのできない画像所見と検体の取り扱いを取り上げた.第2部では脳腫瘍をほぼ網羅する形で,第一線で活躍している脳腫瘍を専門とする病理医に診断のポイントを解説していただいた.第3部では術中迅速診断と細胞診,また分子分類に即した免疫組織化学の応用,さらに脳腫瘍と鑑別を要する非腫瘍性病変を取り上げた.第4部では病理診断にあたっての脳神経外科から病理への要望事項,治療に伴う病理所見の解釈と報告書の記載法について解説した.
分子遺伝学的異常に基づいて脳腫瘍を精密に層別化することは,学術的にも臨床的にも正しい方向性であることに疑いはないが,診断の現場においてそれを忠実に実践することの困難さは確かにある.本書では最新の分子遺伝学的知見に基づいてオーソライズされた脳腫瘍の組織像がどう見えるのかを提示している.個別の症例の診断に際して,最終的には分子遺伝学の力を借りる場面があるとしても,病理医が適切に鑑別診断の的を絞ることで,少ない工程数で正しい診断にたどり着くことができたら,それだけで実臨床に対する大いなる貢献である.現在では一定の要件のもとで遺伝子パネル検査が保険償還されるようになった.遺伝子解析の体制整備も各地の施設で進められていくと思われ,相談に応じてくれるエキスパートもいる.WHO分類は分厚い冊子となったが,本書では内容を厳選して実用性を重視した編集に努めた.本書が脳腫瘍の病理診断ならびに診療に携わる方々にご活用いただけることを願っている.
令和6年1月
横尾 英明
小森 隆司
この「腫瘍病理鑑別診断アトラスシリーズ」は日本病理学会の編集協力のもと,刊行委員会を設置し,本シリーズが日本の病理学の標準的なガイドラインとなるよう,各巻ごとの編集者選定をはじめ取りまとめを行っています.
腫瘍病理鑑別診断アトラス刊行委員会
小田義直,坂元亨宇,都築豊徳,深山正久,松野吉宏,森谷卓也
Ⅰ.脳腫瘍組織分類の現状
Ⅱ.脳腫瘍の画像診断
Ⅲ.病理検体の取り扱い
Ⅳ.脳腫瘍の分子遺伝学
第2部 組織型と診断の実際
Ⅰ.膠腫,グリア神経細胞系腫瘍,神経細胞系腫瘍
1 成人型びまん性膠腫
(1)星細胞腫,IDH変異
(2)乏突起膠腫,IDH変異および1p/19q共欠失
(3)膠芽腫,IDH野生型
(4)膠芽腫の亜型
2 小児型びまん性膠腫
3 限局性星細胞系膠腫
4 グリア神経細胞系および神経細胞系腫瘍
5 上衣系腫瘍・脈絡叢腫瘍
Ⅱ.胎児性腫瘍
Ⅲ.松果体腫瘍
Ⅳ.脳神経および脊髄神経腫瘍
Ⅴ.髄膜腫
Ⅵ.間葉系,非髄膜性腫瘍
Ⅶ.血液リンパ系腫瘍
Ⅷ.胚細胞腫瘍
Ⅸ.トルコ鞍部腫瘍
第3部 鑑別ポイント
Ⅰ.術中迅速診断・細胞診
Ⅱ.免疫組織化学の実際
Ⅲ.腫瘍と鑑別を要する非腫瘍性病変
第4部 臨床との連携
Ⅰ.脳腫瘍の病理診断と治療指針
Ⅱ.組織学的治療効果判定
Ⅲ.病理診断報告書の記載法
索引