スポーツ整形外科だからできること.その本質を理解するためのスタンダードテキスト!
スポーツ整形外科学
アスリートを支えるクリニカルスタンダード
内容
序文
主要目次
近年,スポーツの普及は目覚ましく,アスリートばかりでなく,高齢者を含めた多くの一般人もレクリエーションスポーツを楽しむようになった.また,小児の発育や,メタボリック症候群やロコモティブ症候群などに対する予防や治療としてもスポーツの重要性が指摘されている.しかし,スポーツ活動には運動器の外傷や障害が避けて通れず,安全で楽しくこれを行うために,スポーツ整形外科の需要がますます高まっている.
スポーツ整形外科の最も重要な点の一つ目は,スポーツ外傷や障害の予防である.スポーツは同じ動作を繰り返すことが多いため, 身体各部のスポーツ障害, すなわち, overuse障害が多発する.このoveruse障害は動作を工夫することなどで,ある程度その予防が可能である.またスポーツ外傷も一定の頻度で発生し得るが,これもさまざまな工夫により頻度を減少させることができる.しかし,これらのスポーツ外傷や障害の予防では「スポーツパフォーマンスのレベルを維持しながら予防する」ことが重要な使命となるため,予防にあたってはスポーツについての深い知識が要求される.また,スポーツ整形外科の2つ目の重要な点は,常にスポーツ復帰を考慮した治療を行うことである.アスリートにせよスポーツ愛好家にせよ,スポーツ外傷や障害に対する治療のゴールは日常生活に復帰することだけでは不十分であり,再び元と同じスポーツ競技,しかも元と同じスポーツレベルに復帰させることが重要となる.そのためには治療初期から復帰に至るまで,常にスポーツ復帰を意識した治療が必要になる.スポーツ整形外科の3つ目の重要な点は,アスリートやスポーツ愛好家の身体特性を理解することである.運動器の機能ばかりでなく,循環器,呼吸器,代謝,心理などについての特徴を十分に理解していないと,良い治療はできない.また,スポーツ種目によっても,必要とする身体機能や能力が大きく異なり,これらも理解した上で治療に臨む必要がある.
運動器の外傷・障害の予防や治療に当たっては,当然ながら整形外科の基本的な知識や技術が極めて重要であり,整形外科学の十分な学習とトレーニングが必須であることは論をまたない.そして,その上で,上述したスポーツ整形外科についての3つの重要な点を理解し,実践する必要がある.これまで整形外科全般に関する教育については,多くの教科書が出版されており,整形外科学の教育に重要な役割を演じている.一方,スポーツ整形外科についての教科書も出版されてはいるが,その多くは整形外科学そのものの教科書との違いが明確ではなかった.本書は上述したスポーツ整形外科のポイント,すなわち1:予防医学としての重要性,2:スポーツ復帰を目指した治療,3:アスリートやスポーツ愛好家の身体特性,の3項目を常に意識した構成とし,それぞれの分野の専門家に執筆をいただいた.この3つの要素を意識することにより,スポーツ整形外科の教科書として,わかりやすく,内容のあるものになったと思う.本書が今後スポーツ医学を志す整形外科医のバイブル的存在になることを祈念する.
2020年5月
公益財団法人日本スポーツ医学財団
松本秀男
1 スポーツ整形外科の特徴─ 一般整形外科との違い
2 スポーツ競技の分類
3 スポーツ活動に求められる能力とその評価
❶筋 力
❷柔軟性・関節可動域
❸持久力
❹俊敏性・バランス能力
❺精神力・心理的競技能力
4 アスリートを診る際の注意点
❶アンチ・ドーピング
❷メディカルチェック
❸帯同時の診療
Ⅱ 診断・治療総論
1 スポーツ外傷・障害に対する診断のポイント
2 スポーツ外傷の治療原則
3 スポーツ障害の治療原則
4 トップアスリートに対する治療のポイント
5 女性アスリートに対する治療のポイント
6 小児アスリートに対する治療のポイント
7 高齢者アスリートに対する治療のポイント
8 障害者アスリートに対する治療のポイント
9 持久系スポーツ障害に対する治療のポイント
10 瞬発系スポーツ障害に対する治療のポイント
11 審美系スポーツ障害に対する治療のポイント
12 オーバーヘッドスポーツ障害に対する治療のポイント
13 リハビリテーション・リコンディショニングのポイント
❶基本概念+モビリティとスタビリティ
❷基本概念+モーターコントロール
Ⅲ 疾患別スポーツ診療
1 頚部・体幹
[総論]
1 構造と機能
2 診察と検査
[各論]
1 頚椎椎間板ヘルニア
2 頚椎損傷
3 Burner症候群
4 腰椎椎間板ヘルニア
5 腰椎椎間板症
6 Type 1 Modic変化
7 腰椎骨端輪骨折
8 腰椎分離症―発育期
9 腰椎分離症―成人期
10 腰椎椎間関節炎
2 肩関節・上腕部
[総論]
1 構造と機能
2 診察と検査
[各論]
1 肩関節初回脱臼
2 反復性肩関節脱臼
3 外傷性関節唇損傷・UPS
4 投球障害肩
5 肩鎖関節脱臼
6 鎖骨骨折
7 腱板損傷
8 オーバーヘッドアスリートの棘下筋萎縮
9 上腕二頭筋長頭腱および遠位部断裂
3 肘関節・前腕,手関節・手指
[総論]
1 構造と機能
2 診察と検査
[各論]
1 成長期野球肘内側障害
2 成長期野球肘外側障害
3 野球肘後方障害
4 成人期野球肘内側障害
5 肘部尺骨神経障害
6 変形性肘関節症
7 テニス肘
8 外傷性肘関節脱臼
9 手関節の外傷・障害
10 手指の外傷・障害
4 骨盤・股関節・大腿部
[総論]
1 構造と機能
2 診察と検査
[各論]
1 グロインペイン症候群
2 骨盤裂離骨折
3 骨盤・股関節の疲労骨折
4 大腿骨寛骨臼インピンジメントと股関節唇損傷
5 大腿部肉ばなれ
6 大腿部筋挫傷
5 膝関節
[総論]
1 構造と機能
2 診察と検査
[各論]
1 オーバーユース障害
2 成長期の障害
3 前十字靱帯損傷
4 後十字靱帯損傷
5 内側側副靱帯損傷
6 半月板損傷
7 膝蓋骨脱臼・亜脱臼
8 関節軟骨損傷
9 二次性変形性膝関節症
6 下腿部,足関節・足部
[総論]
1 構造と機能
2 診察と検査
[各論]
1 足関節外側靱帯損傷
2 三角靱帯および遠位脛腓靱帯損傷
3 距骨骨軟骨損傷
4 足関節前方インピンジメント症候群
5 足関節後方インピンジメント症候群
6 アキレス腱断裂
7 アキレス腱障害
8 下腿疲労骨折
9 シンスプリント
10 腓骨筋腱脱臼
11 足底腱膜症
12 外脛骨障害
13 疲労骨折
14 第5中足骨近位骨幹部疲労骨折(Jones骨折)
15 母趾種子骨障害
Ⅳ 競技復帰支援
1 競技復帰に必要な機能の獲得
2 筋力再獲得へのアプローチ
3 可動域・柔軟性再獲得へのアプローチ
4 全身持久力再獲得へのアプローチ
5 アジリティ・バランス能力再獲得へのアプローチ
6 モティベーション維持・再獲得へのアプローチ
索 引