アスリートに謎の腰痛は無い!
極めるアスリートの腰痛
100%を超える復帰
内容
序文
主要目次
このたび,「極めるアスリートの腰痛」を上梓させていただきました.アスリートの腰痛治療,腰痛コンディショニングにかかわるスペシャリスト達が執筆しています.本書のコンセプトは,「アスリートには謎の腰痛は無い」です.
そもそも,本書を企画した発端は,近年,腰痛の85%が病態不明の非特異的腰痛であるとの情報がメディアに流れていることにあります.しかも,その30%が心因性腰痛つまり「心の病」であるというのです.このような認識がアスリートの腰痛診断治療の世界に入ってはならない,その想いから本書が生まれました.私を含め著者全員の共通の認識は,腰痛治療の第一歩は「確定診断」にあり,診断に応じた治療が原則です.つまり,現在の日本の風潮とは基本姿勢を異にしております.アスリートは,一般に言われているような「謎の腰痛が85%」ではないのです.
さて,本書は5つのパートから構成されます.PART I では,特異的腰痛と非特異的腰痛の解説と,なぜ,85%が原因不明と言われているか?の解説を行っています.PART II では,さらに,原因不明といわれている「非特異的腰痛」の現状をスポーツ医学,整形外科,そしてアスリートの現場にかかわる立場から解説しています.2018年の日本,しっかりとした画像診断と機能的ブロックにて確定診断可能な時代となっていることを再確認していただければと思います.そして,本書を読んでいる皆様の力で,「腰痛難民アスリートを無くしたい」,そう願っております.
PART III は特異的腰痛と非特異的腰痛の病態解明となります.言わば本書の「肝」であり「核心」でもあります.アスリートの特異的腰痛の代表は,発育期腰椎分離症と腰椎椎間板ヘルニアです.また,非特異的腰痛は,次の4つの病態(椎間板性腰痛,Type 1 Modic変化,椎間関節炎,仙腸関節炎)を抑えることで,そのほとんどが攻略できます.非特異的腰痛は診断が困難と言われておりますが,PART III を熟読していただければ,非特異的腰痛の謎解きが可能となります.原因不明と言われ非特異的腰痛に苦しむアスリートの「痛み」の謎を説く極意を,読者の皆様と共有できることと確信しております.また,これらの疾患から,100%を超える復帰に導く運動療法も併せて会得してください.
PART IV と V は応用編です.最先端の治療を紹介します.PART IV は運動療法の最前線です.国内最前線で活躍するトレーナーから,evidence based exerciseを紹介していただきます.いずれも整形外科医師には馴染みのない理論ですが,非常に有用な内容が網羅されています.私自身,これらの手法を取り入れることで,腰痛治療が格段に進化しております.これらのエクササイズは術後リハビリテーションにも応用可能です.読者の皆様にも,ぜひ実践していただきたい理論と技術です.最終章であるPART V は最先端の低侵襲手術です.アスリートの手術治療で最も大切なことは,背筋群の侵襲を最小限にすることです.アスリートが徳島大学を受診する理由の多くが,病態解明と低侵襲手術です.アスリートもトレーナーも常に低侵襲手術を望んでいるのです.経皮的内視鏡手術と分離症手術の最前線を紹介するとともに,特化した術後リハビリテーションを解説しています.
本書の特徴は,各病態に対し,診断・治療を担当する整形外科医(Dr)と運動療法を担当するセラピスト(AT & PT)が共同執筆していることにあります.「極めるアスリートの腰痛」の極意は,アスリートを治療後に100%を超える状態として現場復帰を促すことなのです.医師による確定診断と治療,それに引き続くevidence based exercise,この両者によりアスリートの身体は100%以上となり,腰痛治療に加え,再発予防が可能となります.治療の目標が「100%の身体に戻す」時代ではないのです.アスリートの腰痛治療を担当する皆様には,本書を熟読し,低侵襲治療と最先端のコンディショニングで「100%を超える身体」を目指す治療を行っていただきたいです.
研修医には学問の道標を
ライバルには相違点を
全読者(聴衆)には浪漫を
この言葉は,私の恩師である故・遠藤壽男先生(元・健康保険 鳴門病院副院長)からいただいたものです.発表,講演,論文など,自分の意見を他人に伝えたいときの基本姿勢を記しています.本書を通読すると,まさにこの言葉通りの書籍が完成した想いです.ぜひ,皆様と「スポーツ医学と腰痛」における今後の浪漫を共有できればと思います.
2018年8月
第44回日本整形外科スポーツ医学会開催前 徳島にて
西良 浩一
1 特異的腰痛と非特異的腰痛
PART II 国内における非特異的腰痛の現状
1 多施設共同研究からみた非特異的腰痛の現状
2 スポーツドクターからみた非特異的腰痛の現状
3 アスリートからみた非特異的腰痛の現状
PART III アスリートの特異的腰痛と非特異的腰痛の攻略
A red flag 腰痛
1 発育期初期(疲労骨折性)腰椎分離症
B 特異的腰痛
2 腰椎椎間板ヘルニア
C 非特異的腰痛
3 椎間板性腰痛
4 HIZによる椎間板性腰痛
5 椎体終板変性Modic Type 1 change
6 椎間関節性腰痛
7 仙腸関節障害
PART IV 100%を超えるための運動療法
1 Joint by Joint Theoryに基づくMobilizationとStabilization
2 動作評価に基づく段階的コンディショニングトレーニング
3 腰痛へのピラティスアプローチ
PART V 100%を超えるための低侵襲手術
1 局所麻酔Transforaminal PED
2 Thermal annuloplasty
3 分離部修復術
索引