非特異的腰痛を制するものは,すべての腰痛を制する!
非特異的腰痛の解体新書
内容
序文
主要目次
一葉知秋
2023年12月の第31回日本腰痛学会に合わせ,本書を企画・上梓に至りました.学会のテーマは「一葉知秋」としました.一枚の葉が散るのを見て,秋の訪れを察知する.すなわち些細な現象から物事の真実・本質を察知することです.これを腰痛診療に置き換えると,患者の些細な症状や問診から,腰痛の発痛源つまりpain generatorを見極めることになります.
私の記憶によると,2006年頃に「非特異的腰痛」なる診断名が日本に上陸しました.それまでは,「いわゆる腰痛症」あるいは「so-called low back pain」と呼ばれていた,危険信号や下肢症状を伴わない腰痛のみの疾患群です.腰痛全体の85%を占めるといわれています.20年ほど前の米国家庭医の論文に,非特異的腰痛は画像診断にも所見が現れにくく病態が謎のことが多いと書かれており,いつの間にか,非特異的腰痛は謎の腰痛であるという誤った見識がメディアに流れるようになりました.腰痛の85%が謎なはずがありません.
腰痛診療は,「問診に始まり,問診に終わる」といわれるくらい,問診がとても重要です.問診すると,pain generatorがなんとなく見えてくるのです.それをMRIで確認します.MRIでも見えない場合は,機能的ブロックで確認します.これらを駆使すると謎の腰痛はなくなり,「非特異的腰痛」のpain generatorが同定できます.これこそ,一葉知秋的・腰痛診察ストラテジーなのです.
本書は,まずPART ⅠとPART Ⅱの総論から始まります.まずこの2つのPARTは完璧に理解することをお勧めします.診断法と保存療法が解説されています.ここに提示したブロック療法,薬物療法,運動療法を実践できれば,たとえpain generatorが確定できなくとも,多くの非特異的腰痛を完治に導くことが可能になります.腰痛診療ガイドライン2019によれば,非特異的腰痛は画像診断を行う前に,まず,十分な保存療法を行うことが推奨されています.これらをマスターすることで腰痛治療のプロフェッショナルになれます.
さて,PART Ⅲからが各論です.上記保存療法でも腰痛が改善しない場合にはMRIなどの画像診断で病態を確定し,病態に応じた次のステップに移るのです.このたび,非特異的腰痛の代表的pain generatorを5疾患厳選しました.Modic change,椎間板性腰痛(discogenic pain),椎間関節痛,仙腸関節障害,腰椎分離症です.腰椎分離症は発育期ではred flags腰痛,すなわち特異的腰痛になりますが,成人では非特異的腰痛になるため,本書で取り上げることにしました.これら病態の最先端診断法,最小侵襲手術,新しい概念などが紹介されています.この5つの病態の診断法と治療法を熟知することで,「非特異的腰痛」の謎はなくなります.謎の腰痛がなくなりpain generator が同定されることで,前述の治療法がさらに有効に行われます.
非特異的腰痛を制するものは,すべての腰痛を制する
過去,ここまで,「非特異的腰痛」に切り込んだ書籍は見当たりません.21世紀は「謎からの脱去」,「腰痛に謎はない」時代に来ております.本書を通読してくださると,その意味をご理解いただけるものと思います.ぜひ,手にとっていただきたい.そして,明日からの臨床に結びつけ,謎の腰痛はない世界を,皆様方と実現させていきたいと切に望んでおります.
2023年11月
徳島大学運動機能外科 教授
西良浩一
1.非特異的腰痛の基本概念
2.非特異的腰痛のブロック療法
3.非特異的腰痛の薬物療法
4.非特異的腰痛の新しい画像診断―fMRI
PART Ⅱ.非特異的腰痛の運動療法
1.運動療法の基本的指針
2.評価KOJI AWARENESS™―セルフ・スクリーニング方法と腰痛との関係
3.Joint by Joint Theory
4.Core Power Yoga CPY®
5.ピラティス:コントロロジー
6.腰痛術後ピラティス
7.シナジー解析とピラティス
8.徒手理学療法の最前線
9.高齢者向けのヨガ
10.呼吸と体幹
PART Ⅲ.Modic change
1.画像診断と歴史
2.アクネ菌説と基礎医学
3.化膿性脊椎炎との鑑別法
4.保存治療の最前線―抗菌剤と抗炎症剤
5.固定術と全内視鏡下disc cleaning
6.Modic changeの運動療法
PART Ⅳ.Discogenic pain
1.画像所見&鏡視所見
2.基礎実験からの疼痛機序
3.PRP治療の最前線
4.細胞治療の最前線
5.全内視鏡下thermal annuloplasty
6.Discogenic painの運動療法
PART Ⅴ.椎間関節痛
1.アスリートにおける対策
2.骨髄浮腫と後方Modic
3.野球選手の特徴
4.椎間関節痛の運動療法
PART Ⅵ.仙腸関節障害
1.機能解剖とバイオメカニクス
2.診断と保存療法
3.アスリートの仙腸関節障害
4.手術療法
5.仙腸関節障害の運動療法
PART Ⅶ.腰椎分離症
1.診断と治療の基本とスポーツ復帰
2.保存治療の新しい考え方―基本を超える
3.CT-like MRIを使った未来診療
4.各種分離修復術
5.ロボット手術の応用
6.腰椎分離症の運動療法―骨癒合を目指す場合
7.腰椎分離症の運動療法―終末期での復帰を目指す場合
索 引