褥瘡ケアに必要な最新知識と理学療法技術のエッセンス!
理学療法を活かす褥瘡ケア(電子版のみ)
評価・治療・予防
内容
序文
主要目次
わが国の高齢者人口は「団塊の世代」が65歳以上となる平成27(2015)年9月には3,384万人となり,「団塊の世代」が75歳以上となる平成37(2025)年には3,657万人に達すると見込まれています.その後も高齢者人口は増加を続け,平成54(2042)年に3,878万人でピークを迎えるといわれています.また,高齢化と食生活の欧米化により,糖尿病,脳梗塞や心筋梗塞,下肢の閉塞性動脈硬化症など循環障害を有する患者数が年々増加しています.厚生労働省の統計では,高齢者が寝たきり状態で過ごす期間の平均が8.5か月とされています.このような状況から褥瘡を含む慢性創傷患者の増加も懸念されています.それゆえ,医療専門職がより専門技術を高め,病院や在宅で褥瘡に苦しんでいる患者への支援ができるようになる必要があります.今までは,慢性創傷は感染が悪化しないよう維持するにとどまっていましたが,最近10年は,医療専門職が各領域から「褥瘡の予防・管理」に精力的に取り組むようになりました.褥瘡治療は薬剤投与や手術だけで治療が完結するわけではありません.そこで,褥瘡に対する学際的診療体系が「褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)2015」にまとめられ,すべての病院には褥瘡対策チームが編成されています.医療専門職は,一丸となって,このガイドラインで提案されている指針の遵守率を高める責務と工夫が必要になります.今後は,ガイドラインの遵守率の達成度が病院機能の評定に関わってくるようになるのではないでしょうか.
本書は理学療法士が褥瘡対策チームの一員として,リハビリテーション医療の視点から積極的に理学療法(運動療法・物理療法・日常生活活動練習)を発揮できるよう,手軽に勉強してもらう目的でまとめた書籍です.理学療法士が専門技術を発揮するためには,創傷の治癒過程や慢性化する要因などの知識が必要です.多くの理学療法士は褥瘡の病態評価をしないまま,褥瘡を被覆しているドレッシング材(創傷被覆材)の位置だけを確認して,創部への圧迫を減圧,除圧することだけに専念していました.つまり,車椅子乗車時の適切な座り方(シーティング)を調整したり,プッシュアップ動作の習慣化を指導したりしてきました.そこで,本書では,創部の形状や創面評価(DESIGN-R®など)に基づいた生活活動や行為の指導の重要さをまとめ,褥瘡に関する最新知識とガイドラインを通して褥瘡の理学療法水準を詳述しました.臨床経験の少ない理学療法士でも,褥瘡の局所治療に取り組めるように,臨床での物理療法の選択基準をまとめてみました.本文中の随所に【研究紹介】を設け,われわれの研究で確認されている知見を可能な範囲内で提示することを心がけました.おもに著者のかかわった基礎研究(動物実験・培養細胞研究など)や臨床研究(シングルケース研究;ABAB方式の紹介,レトロスペクティブ研究,臨床治験研究,症例報告など)を紹介し,基礎研究と臨床とのギャップを埋めるトランスレーショナル・リサーチ(translational research)の重要さを提示するようにしました.本書により理学療法士が褥瘡患者を前にしても,専門職種共通の創の病態評価から予防や局所治療プログラムを立てることができ,療養生活を支援できることを願っています.さらに,臨床研究者が,本書に記述されているエキスパートオピニオン(expert opinion)を熟読し,科学的根拠(エビデンスevidence)が証明されていない箇所の基礎研究や臨床研究に情熱的に取り組んでいただくことにより,より根拠のある臨床的な手技を確立することにつながれば,編集した甲斐があったと思います.
2016年7月
神戸学院大学 杉元雅晴
II褥瘡患者の評価
1 創の観察
2 褥瘡の評価手段
III 褥瘡の局所治療─物理療法
1 総論
2 水治療法
3 電気刺激療法
4 超音波療法
5 近赤外線療法
6 その他の物理療法
IV 予防―姿勢管理・運動療法
1.体位変換・ポジショニングによる褥瘡予防
1 臥位姿勢
2 座位姿勢
3 その他の姿勢・動作
4 移乗動作
5 車椅子駆動
2.褥瘡にならないための運動療法
1 運動療法・物理療法による褥瘡予防
2 褥瘡を悪化させない運動療法
3.褥瘡患者のための車椅子の処方
1 原因と対応
2 処方と指導の実践
V 褥瘡ガイドラインの実践的活用
1 褥瘡ガイドラインをどう理学療法に応用するか
2 臨床での物理療法の選択基準
VI 褥瘡の理学療法への指針と展望
索引