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新進気鋭の総合診療医が書き下ろす,渾身の「性感染症入門書」!

ジェネラリストのための性感染症入門

  • 著:谷崎隆太郎(三重大学名張地域医療学講座講師/名張市立病院総合診療科教育研修担当部長)
  • A5判・172頁・2色刷(一部4色刷)
  • ISBN 978-4-8306-1024-0
  • 2018年4月7日発行
定価 3,300 円 (本体 3,000円 + 税10%)
あり
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内容

序文

主要目次

性感染症は医学的な知識があるだけでは不十分で,患者とそのパートナーの心情や社会的背景にまで配慮した診療が必須の分野である.必ずしも性器に関連した症状が出るとも限らず,どのような症状で来院するかも様々で,産婦人科・泌尿器科・皮膚科・感染症内科をメインに,複数の科にまたがる疾患であり,系統だって学ぶことは難しかった.本書はそんな性感染症の基本的知識から診断・治療,フォローアップ・予防までを1冊で学べるジェネラリストのための入門書である.
はじめに

 性感染症を診療するに当たり,最も重要なことは何でしょうか?
 知識? 経験? それとも最新文献のアップデート?
 1つ挙げるとしたら,おそらくそれはコミュニケーションだと思います.医師- 患者間のコミュニケーションが盤石であれば,適切な病歴聴取や身体診察,治療薬の内服アドヒアランスやフォローアップのための外来受診など,診療が円滑に進んでいきます.また,医師-患者間だけでなく患者-パートナー間のコミュニケーションがスムーズであれば,医師からの情報もパートナーに伝わりやすく,さらなる感染伝播のリスクも減らせます.
 「性感染症」という言葉からは「尿道から膿が出た」,「腟から変なおりものが出た」など,内科的でない主訴で泌尿器科や産婦人科を受診するように思われるかもしれませんが,発熱,咽頭痛,腹痛,皮疹などの主訴で内科を受診して来る場合もあります.その際,性感染症を疑ったとしても,性交渉歴をスムーズに聴取すること自体に高度なコミュニケーションスキルを要します.
 近年,世界的な梅毒の流行が注目されていますが,そもそも性感染症がセックスという日常的な行為の一つに伴う感染症である以上,一部のコミュニティにおけるまれな疾患ではなく,日常診療で普通に出遭う機会のある感染症の一つだということを認識しておく必要があります.
 また,性感染症治療の特徴として,原則,患者本人だけでなくパートナーの治療も必須だという点が挙げられます.つまり性感染症は,診断した時点で治療介入すべき患者が少なくとも2人以上存在することになります.しかし,全ての患者さんがパートナーに速やかに全てを打ち明けられるわけでもなく,ここでもある種のコミュニケーションスキルが要求されます.そもそも,性に関することは他人に気軽に打ち明けられる内容ではないため,患者の心理面への配慮はいつも以上に慎重を要します.
 さらに,レズビアン,ゲイ,バイセクシュアル,トランスジェンダー(LGBT)といった性指向の多様さへの理解もコミュニケーションを円滑に行うためには必須の知識ですが,未だ誤解や偏見の多い領域でもあります.そもそも日本では,性にまつわることを口にするのはタブーであるかのような雰囲気もあるため,患者さん自身も相談しにくいのかもしれません.場合によっては,医療従事者の無知や偏見などによって,悩める患者さんの心をさらに深く傷つけるかもしれません.さらに,性感染症は若年者のうつ病のリスクを増加させるとも言われており(Jenkins WD, et al.:Young adults with depression are at increased risk of sexually transmitted disease. Prev Med 88:86-89, 2016),目の前の症状を治すことだけにとどまらず,幅広いケアが求められる疾患なのです.
 プライマリ・ケアのセッティングでは,性感染症治療のために受診したことをきっかけに,今後の性感染症の予防方法や避妊方法の啓発,家族計画の相談などにも繫がっていくため,性感染症診療は家庭医・総合診療医が活躍できる分野の一つでもあります.一方で,日々,総合診療専門研修中のレジデントを指導している中で,彼や彼女らの背景にある性感染症診療の知識やコミュニケーションスキルには大きなばらつきがあることに気が付きました.確かに自分の医師人生を振り返ってみても,東京で診療していたときには,毎週のように梅毒や尿道炎の患者さんを診ていたのが,地元に帰って来たら性感染症の診療機会が激減しており,地域によって経験できる症例数に差が出やすい領域だということを実感しています.加えて,性感染症についての各論を学ぶ機会はあっても,総論から学ぶ機会はそう多くなかったなぁと思い,本書の執筆に至りました.そしてその内容は,教科書的というよりは,なるべく実践的な記載になるよう心掛けました(ですので,詳細な点はぜひ成書もご参照ください).
 本書は初期研修を終えてこれから地域のクリニックや総合病院で総合診療の専門研修に入る医師を想定して書かれていますが,その枠を飛び越えて,広く現場の第一線で奮闘する臨床医の皆さんの性感染症診療の一助となれば幸いです.

平成30年2月
谷崎隆太郎
1章 性感染症の疫学
1 性感染症の発生動向について
 1 梅毒について
 2 HIV感染症について
2 性感染症の届出・感染経路について
 コラム MSMとは……?
 コラム あなたの想像するセックスが,他人が意味するセックスと同じとは限らない
 コラム 正しいセックスをしていれば性感染症は防げる?では,正しいセックスとは?
2章 性感染症の臨床(総論)
1 性感染症を臨床感染症の基本に照らし合わせると
2 いつ性交渉歴を聴取すべきか?
3 性感染症診療における患者背景
 1 性交渉歴の聴取の仕方
  a.まずは環境調整から
  b.環境が整ったら,いざ聴取
  c.性交渉歴聴取モードに入ったら,さらに深い問診に入る
 2 渡航歴の重要性
4 性感染症診療における臓器所見と主な原因微生物
 1 女性の性感染症
  a.特 徴
  b.性器クラミジア感染症,淋菌感染症について
 2 男性の性感染症
  a.特 徴
  b.男性の尿路感染症を診たら?
 3 性器症状
  a.尿道炎
  b.腟 炎
  c.陰部潰瘍
 4 性器外症状
  a.咽頭痛
  b.口腔内潰瘍
  c.リンパ節腫脹
  d.関節痛
  e.皮 疹
  f.腹 痛
  g.直腸炎
  h.感染性心内膜炎
  i.その他(眼症状など)
 コラム ブライダルチェックとは?
 5 性感染症の検査所見
 6 性感染症の治療
 7 性感染症診療における適切な経過観察
 コラム 性交渉の危険な合併症!?
 コラム セックスで尿管結石が治る……?!
3章 各性感染症の概要と検査・治療など
1 梅 毒
 1 梅毒の自然経過
  a.第1期梅毒(primary syphilis)
  b.第2期梅毒(secondary syphilis)
  c.潜伏梅毒(latent syphilis)
  d.第3期梅毒(tertiary syphilis)
  e.神経梅毒(neurosyphilis)
 2 梅毒の検査特性
 3 神経梅毒の診断
 コラム RPRの測定方法は倍数希釈法から自動化法へ
 4 梅毒の治療
 5 Jarisch-Herxheimer反応とは
 6 フォローアップ
2 淋菌感染症
 1 淋菌性尿道炎
 2 淋菌性咽頭炎
 3 淋菌性尿道炎・咽頭炎の治療
 4 播種性淋菌感染症
3 非淋菌性尿道炎
 1 非淋菌性尿道炎の診断・治療
 2 NCNGU
  a.Mycoplasma genitalium感染症について
   1)診 断
   2)治 療
  b.トリコモナス尿道炎
  コラム M. genitalium感染症へのアジスロマイシンの投与方法は?
4 性器ヘルペス
 1 性器ヘルペスの症状
 2 性器ヘルペスの診断
 3 性器ヘルペスの治療
 4 性器ヘルペスの再発抑制について
5 骨盤内炎症性疾患,Fitz-Hugh Curtis症候群
 1 PIDの診断
 2 PIDの治療
 コラム 男性のFHCSは存在するか?
6 赤痢アメーバ症
 1 赤痢アメーバ症の臨床所見
 2 赤痢アメーバ症の診断
 3 赤痢アメーバ症の治療
 4 フォローアップ
 コラム その虫垂炎の原因はアメーバかもしれない……?!
7 HIV感染症
 1 HIV感染症の基本的知識
 2 HIV感染症の診断
 3 HIV感染症の臨床所見
  a.急性感染期
 コラム HIV感染症は根治できるのか……?
  b.無症候性キャリア期
  c.AIDS(エイズ)期
 コラム PCPの正式名称
 4 HIV感染症の治療
 5 HIV感染症のその他の課題
8 ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症
 1 HPVと子宮頸癌
 2 HPVワクチン
 3 子宮頸癌以外のHPV感染について
  a.尖圭コンジローマ
  b.再発性呼吸器乳頭腫症
  c.中咽頭癌
4章 フォローアップ・予防
1 パートナー検診について
2 患者への教育,再発予防
 1 コンドームの使用
 コラム 女性用コンドーム,ご存じですか?
 2 リスク行動の回避
 3 ワクチン接種
3 定期検査
 コラム レイプなど,性暴力を受けた人が受診したら
 コラム DV被害について
付 録
 コラム 性感染症の治療早見表
 コラム 症状から診る性感染症
索 引