何気ない症状に潜む危険を見逃さない!
どう考えて,どう対応する?
子どもの微症状ガイド
38の気になる徴候・症状
内容
序文
主要目次
養育者から,「小児の気になるちょっとした徴候(signs)と症状(symptoms)」について相談を求められたときに,的確な説明が可能かというと,なかなか,教科書通りにはうまく説明できないものである.
気になる症候〔徴候(signs)と症状(symptoms)を合わせて症候という〕を,医師が養育者にうまく説明できなくて困るときがある.うまく説明できるようになりたいと思ったりもする.
だが実際にはどうだろうか.知識が乏しい,経験が少ない,知っているが深く考えていなかった,気にはなっていたが(いつかは調べてみよう)深く考えたことはなかった,存在は認識しているが具体的に説明できない症候だった.そのようなことはないだろうか?
時には,何気ない微徴候に思わぬ危険が潜んでいたりもする.本書は,そのような場面で役立つ知識の整理ができるように企画した内容である.
本書を執筆するにあたり,参考にした書籍がある.1962 年に医学書院から出版された「小児の微症状」(初版)(監修:村上勝美,編集:馬場一雄,植田穣)である.以下,要点を抜粋する.
ある種の症状,ある程度の症状があっても,それだけでは疾患の診断がつけられない場合がある.そうかといって,健康であるともいえない.これらの軽微な症状を中心とする状態を総括表現する適切な語として,微症状(subclinical symptom,minor illness に相当する)と呼ぶとした,とこの書籍では述べている.微症状を示す小児は,はっきりとした疾患の範疇にも入らず,また完全健康でもない.疾患と健康の中間地帯に一群の微症状を示す状態をあてはめてみたい.この微症状の多くは養育者,教師などの側から問題にされ,医師の側からは病気ではないといって取り扱われないものである.本書は,小児科医はもちろん教師,養育者,保育者などふだん小児と密接な関係をもつ人々のために,これら微症状を示す小児の状態,健康から病気への傾斜の途中にあると思われる状態について整理統合することによって認識を深めるという目的をもつものである.「小児の微症状」第2版の序では,(微症状に対して)医師は習慣に従って医学的に解明をしようという方向に向かって努力をするが,容易に目的を達することができず,家人の側はただ不安と焦燥のなかに沈潜して,多くの場合,医師も家人もともに困り果てるのである,とある.微症状をsubclinical symptom,minor illnessと認識して,全人的に扱う概念を提唱したものである,と述べている.1977年にジョージ・エンゲルが提唱した新しい医学観である生物・心理・社会モデル(Bio-Psycho-Social model)の一環として捉えることができる.まさにこれを先取りした考えであり,微症状を扱ったことは嚆矢といえる.
1982年に小児医学(医学書院)で「小児のソフトサイン」(編者:鈴木栄)を特集したモノグラフが発刊された.そこでは,「微症状」を「ソフトサイン」に置き換えて,臨床上,病的といってよいのかどうか迷うような症状,状態が少なくなく,われわれ臨床医が困るのはこのようなときであると述べており,「微症状」を「ソフトサイン」とほぼ同義と解釈している.
ただし,ソフトサインはハードサインと対比できる用語であり,小児神経学的には,明らかな運動麻痺,感覚麻痺はハードサインであり,軽微な神経機能障害をソフトサインと呼んでおり,ソフトサインはすでに定着した用語になっている.筆者には,「微症状」を「ソフトサイン」と読み替えるには,少し違和感がある.
恩師の故馬場一雄先生(日本大学名誉教授)は,「子どものソフトサイン―子育ての科学」(メディサイエンス社,1991年)を出版されたが,続刊からは「子育ての医学」(東京医学社,1997年)と書名変更して,子育てに奮闘している養育者や子育ての支援を行っている方々が正しい判断や意思決定を行うために必要な知識を集めた書籍として世に出ている.おそらくは,臨床医学が疾患追求のみを目指して,心理,社会とのかかわりを軽視するのではなく,科学的視点で全体を見渡そうとした表現として「ソフトサイン」ではなく,「子育ての医学」と名づけたのではなかろうか.愚身には計り知れないが,「微症状」や「ソフトサイン」では,臨床医学の縦糸だけが目立ち,心理,社会の横糸が見えにくくなるからではないだろうか.
以上,さまざまのことを考えつつ,微症状(subclinical symptom,minor illness)を小児の気になるちょっとした徴候signsと症状symptomsと同義であると認識して本書の書名に取り上げた.ただし,副題的に,“We help mothers and children what their pediatricians cannot explain”と添えて,読者に意を解していただこうとした.
「小児の気になるちょっとした徴候と症状」に気づく.「病気と健康のはざまの症状と徴候」はかくれた病気からのSOSである.養育者が発する訴えに傾聴をするのは大切であるが,本当に子どもの状況を正確に捉えているかどうか,養育者自身の不安を子どもに置きかえているか(by proxy)も吟味する.家庭環境不全からのSOSにも気づき,適切な対処ができるようになりたい.このような主旨で,本書を上梓した.
最後に,本書の企画に賛同していただき,ご協力してくださった文光堂編集企画部の佐藤真二氏,臼井綾子氏に深謝をいたします.
Keeping one eye on your patient’s sign and the other eye on his and her on symptom can help you to detect smaller problems before they become bigger ones.
2019年2月
稲毛康司
1. 眼球運動異常(スパスムス・ヌータンスについて)
2. ものが大きく見えたり,小さく見えたりする
口腔
3. 口が臭い
4. 口腔内の小帯(襞),上唇小帯
呼吸器
5. 鼻出血
6. 咳が長引く
頭頸部・胸郭
7. 頭の形が大きい,小さい,わるい
8. 耳介の形,位置
9. 頸のぐりぐり(頭部と頸部のリンパ節)
10. 胸が痛い(胸痛)
摂食・嚥下
11. 多尿,多飲
12. 飲み込めないわけではないが,固形食が食べられない
13. 食事をすると,頬が赤くなって汗が出る
消化器
14. 便の色
15. 吃逆(しゃっくり)
成長
16. 体重が増えない(乳幼児期)
17. 背が伸びない
思春期
18. 体臭(口臭を除く),わきが(腋臭症)
19. 多毛
20. 女性化乳房,乳房を痛がる
発達・心理・睡眠
21. 夜泣き
22. やる気がない(小児のうつ病)
問題行動
23. 自傷行為
24. 頭を壁や床にぶつけたり,叩いたりする
皮膚
25. 脱毛,白髪,毛髪奇形
26. 多汗
自律神経,不定愁訴
27. 冷え性
28. ねあせ(寝汗,盗汗)
運動器
29. 背部痛
30. つま先歩き(つま先立ち)
31. 歩き方がおかしい,よく転ぶ
32. 関節がポキポキ鳴る
外性器
33. 包茎
34. 小陰茎(ミクロペニス)
泌尿器
35. 尿が泡立つ
発熱
36. 微熱
37. よく熱を出す
痛み
38. 乳児コリック(3 か月コリック)
索引