身体が求める運動を導く手立てを「運動誘導」として昇華させる!
身体が求める運動とは何か
法則性を活かした運動誘導
内容
序文
主要目次
ビー玉をテーブルに置く.少しでも傾斜があれば自ずと転がる.ではサイコロをこのテーブルに置くと……?置くまでもない.“転がらない”という現象を誰もが確信を持って判断できる.“形”と自然の摂理が生み出す“あたりまえ”の事象であるからだ.人間の運動の評価や指導の現場では,この“あたりまえ”のことが見落とされていることが少なくない.例えば,走歩行における接地時の衝撃緩衝は直接地面と接する足部機能やシューズの特性にその機能性を求めてしまいがちである.しかし,“あたりまえ”のことに立ち返れば,歩いているまたは走っている“人”という形と身体全体の仕組みが衝撃緩衝を担っているということを確認できる.つまり,衝撃を吸収する仕組みを紐解くのであれば,生体としてのその形,仕組みがいかに機能しているのかという観点で考察していかなければ永遠に答えはみつからない.本書を手に取っていただいたあなたには,狭義で物事をとらえがちになることから解き放つためにも,“勉強”ではなく,自然に沸き起こる“気づき”を楽しみながら経験していただきたい.
また文中で,あえて使用する“紡がれ続ける”という言葉がある.運動は生きている以上一時たりとも止まることはない.綿々とその営みは続いていくのである.評価や指導の現場では,1コマ1コマを切り取った形で表されることが非常に多い.この連続性をあえて,1本の糸が切れることなく紡がれ続けるというイメージを持ってとらえていただきたい.
運動は,流動的であいまいで不思議なことだらけ.しかし,その多くは生体力学,神経科学という根源的なエビデンスに照らし合わせれば整理されていく.本書では,それでも生体の不思議に委ねざるをえない“そうなってしまう”という法則性にもおそれず真摯に向き合い,“あたりまえ”のことに対峙し,身体が求める運動を導く手立てを考察し提案していくこととする.
共著に名を連ねる山岸茂則,舟波真一とともに,ここまで「運動は作るものではなく,生まれ出づるものである」というテーマに向き合ってきた.2人が,それまでは別枠で語られることが多かった生体力学と神経科学の知見を咀嚼し実にシンプルで明解な“統合的運動生成概念”として昇華したことは,筆者の活動における指針となった.当然ながら,本書で著した知見も2人なくしては構築できないことであった.ゆるぎない尊敬の念を持って今後もともに歩みたいと願う.また,この本を著す機会に巡り合わせていただいた,すべての方々へ心より,心より,尊敬と感謝の意を表し,序文とする.
2017年4月
水口 慶高
1.運動とは何か?(統合的運動生成概念)
2.アプローチの理論(BiNI理論)
2 運動が達成されるための3つの学習戦略
1.3つの運動学習戦略
2.自己組織化理論に基づく教師あり学習
3 運動誘導は治療
1.痛みは運動から生まれる
2.よくある運動評価と指導
3.教師あり学習における教師信号を考える
4 運動は身体が選ぶ
1.運動は身体が選ぶ
2.形と仕組みが動きを作る
3.先回りシステム(APA)と積極的外乱生成
4.脊髄は管制塔
5 根源的な歩行システムと足部機能
1.柔らかい足と硬い足
2.転がる足
3.骨盤の前・後傾運動
4.動歩行へ導くこと
6 運動は紡がれ続ける
1.“立つ”はすでに運動
2.立ち上がり方で歩行が変わる
3.スタートラインが始まりではない
4.ルーティンのすすめ
7 左右特異性と運動誘導
1.非対称歩行(右の通り道,左の通り道)
2.螺旋性の法則
8 感じる力
1.触れる
2.構造を変える
3.こころ
4.感覚入力の優位性
9 歩行誘導に効果的な教師信号
1.そうさせるのではなく,そうなってしまう運動誘導
2.左足から接地
3.2本のレールの上を歩く
4.肘を曲げ,腕を振る
5.補助はどちらに位置する?
6.左腰タッチで歩行誘導
7.手をつなぐ
8.視界を広げる
10 幹が変われば枝葉が変わる
1.“根幹”につながる教師あり学習戦略とは?
2.身体は“楽ちん”を選び続ける
索 引