不明熱を診るなら,発熱だけに注目してても診断はつかない.手がかりとなる「+α」を捜せ!
この1冊で極める不明熱の診断学
不明熱の不明率を下げるためのガイドブック
内容
主要目次
書評
1 不明熱の定義
2 外来患者の「不明熱」〜入院させるべきか,帰してもよいか?〜
3 入院患者の「不明熱」
4 海外渡航者の「不明熱」
5 HIV 感染症と発熱
6 発熱性好中球減少症
第II章 「不明熱」の鑑別診断学(診断推論)〜疾患リストをみてみよう〜
1 「不明熱」の診断推論〜ある程度あたりをつけて検査すべし〜
2 考える材料をリストアップ!
3 「不明熱」診断の概略マップ
4 これが不明熱の正体!(よく出合う,見逃してはいけない,気になる疾患20)
5 そんなの知らないよー 〜uncommon? まさかの不明熱〜
第III章 「不明熱」診断の病歴学(発熱+αのαを探すための問診テクニック)
1 現病歴で押さえるポイント
2 家族歴で押さえるポイント
3 既往歴で押さえるポイント
4 生活歴で押さえるポイント
5 服薬歴で押さえるポイント
6 ROSで押さえるポイント
第IV章 「不明熱」診断の身体所見学 〜診るポイントは?〜
1 総論〜身体所見のストラテジー〜
2 バイタルサイン
3 頭部のどこに気をつけて診ていくか?(眼・鼻・耳,側頭動脈,副鼻腔など)
4 頸部のどこに気をつけて診ていくか?(咽喉頭部,甲状腺,リンパ節など)
5 胸部のどこに気をつけて診ていくか?(心臓,肺,乳房など)
6 腹部・骨盤部のどこに気をつけて診ていくか?(腹部触診,Murphy 徴候,直腸診など)
7 背部のどこに気をつけて診ていくか?
8 四肢・手指・足指のどこに気をつけて診ていくか?
9 皮疹のどこに気をつけて診ていくか?(紫斑,紅斑,皮下結節,結節性紅斑など)
第V章 「不明熱」診断における検査学〜どんな検査をしていくか〜
1 ある程度あたりをつけて検査しないと…「どうしてこの検査やってない」症候群
2 血液検査の何に注目するか?
3 生化学検査の何に注目するか?
4 CRPをどう使う?
5 血液培養はどう読むか?
6 ウイルスマーカーをどう使いこなす?
7 腫瘍マーカーをどう使いこなす?
8 尿検査の何に着目するか?
9 胸部単純X線写真はどう読むか?
10 CTはどう読むか?
11 生検はどのような場合に行うか?
第VI章 empiric therapyから根治的治療へ
1 「不明熱」の診療における抗菌薬の選択・使用の考え方
2 ステロイドの使用量・使用方法と注意点
第VII章 ケーススタディで学ぼう〜症例・エピソード解説〜
付録 不明熱診断マトリックス
索引
評者:徳田安春(筑波大学附属水戸地域医療教育センター水戸協同病院)
表紙のタイトルの下に「不明熱の不明率を下げる」と書いてある.韻を踏んでおり,中々面白いキャッチコピーである.内容のレベルから判断すると,この本の対象は,初期研修医からシニアレジデントである.それでも,実践的な内容が豊富であり,若手からベテラン内科医の日常診療に役立つものだと思う.
不明熱の古典的定義では「三週間以上発熱が続く」とされるが,この本がカバーするのは,初診時に原因がはっきりしない発熱患者への対応法も含まれており,一般診療でもかなり多くの患者さんの診療に役立つといえる.
内容では総論と各論の双方ともに充実しており,筆者が優秀な総合内科ジェネラリスト集団であるので,総合内科ジェネラリストの視点から発熱患者の診断,治療をどう行っていくかということが記載されている.なかでも,貴重な症例集や役に立つクリニカルパールが数多く含まれており,とても参考になる.各論の疾患解説では最新のトピックも記載されており,知識のアップデートに役立つ.
第III章の「不明熱診断の病歴学」では,発熱プラスαの「α」を探すための問診テクニックが病歴の各セクションの中で記載されており,有用である.このプラスα探しがうまく出来るようになると,発熱患者を診療するのがとても楽になる.
例えば,旅行歴を聞く場合,「どこどこに旅行に行って来た」という情報のみならず,「どこに行ってなにをやったか」まで聞くべきである.
「不明熱診断の身体所見学」では,バイタルサインで重症度を把握することが強調されているのがうれしい.また,発熱の原因についてのヒントを探るための身体所見の様々な所見についてのヒントもチェックポイントが記載されているのがよい.重要な所見はカラー写真で本の最初にまとめられているので,何度も参照する際に便利である.
検査に関しては「どんな検査をする適応があるか」というふうにある程度あたりを付けて検査をするということが重要であることが強調されているのがよい.ショットガンアプローチで検査をしても無駄な検査にミスリードされる可能性がある.医療費の浪費も避けるためにもこのコンセプトはたいへん重要である.
カンファレンスでよく聞かれる「どうしてこの検査をやっていないの?」というふうなコメントが聞かれる症候群,があることも指摘されている.まぁ,そういったことが無いように,という戒めも記載されている.
不明熱では,「安易に抗菌薬そしてステロイドを投与してはいけない」というのはとくに重要である.そのようなロジックも含め,最後にケーススタディ,そして症例エピソード,解説がかなり詳しく記載されており,応用編としてもとても有用である.また本書では,菌血症を疑うポイントや血液培養の重要性も力説されている.これを読んだ読者におかれては,診療所やクリニックでも血液培養を提出するプラクティスをぜひ実践してほしいところである.
付録には不明熱診断マトリックスが付いている.これを使うとさらに,知識のリフレッシュ,ブラッシュアップが計られるだろう.こうした意味において初期研修医,シニアレジデント,そして若手医師,特にジェネラリスト総合内科を目指す人達にお薦めの一冊であると言える.この書籍を読破し,発熱や不明熱の症例経験を大量に積みながら,さらに次のステップとして,青木眞先生(感染症コンサルタント)の愛読書である,Fever of Unknown Origin(Dr. Burke Cunha編集)を原書で読みこなすようになれば総合内科指導医として完成に近いともいえる.
(「Medical Practice」2012年9月号掲載)