超音波のこと,きちんと理解してみませんか?
よくわかる!
超音波検査に必要な「基礎」
医用超音波工学入門
内容
序文
主要目次
超音波診断装置には,非侵襲性,実時間性,小型・簡便という三つの長所がある.超音波診断はX線診断と異なり被曝の心配がなく,経過観察等のために繰り返し適用できるほど非常に侵襲性が低い.また,得られる画像は動画であり,拍動する心臓がリアルタイムに観察できる.装置はベッドサイドに持ち込める程度の大きさで,超音波プローブを体表に当てるだけで画像が観察でき,近年ではポケットに入る超小型の装置も登場した.このような特徴により超音波診断装置は臨床現場に広く普及し,必要不可欠なツールとなっている.
超音波診断装置という用語を一般の人がみると,診断をしてくれる装置という誤った印象を抱くかもしれないが,診断を下すのはあくまで人間である.装置が行っているのは,生体内で反射して戻ってきた超音波(エコー)を検出し,これにさまざまな処理を施し画像化するという,ある種の信号変換あるいは可視化に過ぎない.したがって,装置の出力する画像をもとに適切な診断を行うには,超音波が生体の中でどのように振る舞い,検出されたエコーを装置がどのように画像化しているかを理解しておくことが重要である.このために,日本超音波医学会が実施する超音波検査士認定試験においても「医用超音波の基礎」の試験が課されている.ところが,医療関係者が医用超音波工学について学ぼうとするとき,教科書となりうる書は意外なほど少ない.これが本書を執筆する動機となった.
本書は,超音波診断に必要な医用超音波工学の基礎を扱ったものである.読者は主として医療関係者であることを想定し,天下り的な論理展開をできるだけ避け,読み進むごとに理解が深まるような記述を心がけた.また,読者は高校レベルの数学と物理を理解しているものと想定して本書を記述した.工学的内容を扱う限り,数式の使用は避けられない.数式が嫌われるのは承知しているが,これは暗記するものではなく,理解を深めるための道具であると認識してほしい.本書で使用した数式は高校数学の範囲で導出できるものばかりである.物理に関しては, 重要な事項を“NOTE”にまとめてある. もし, 基礎的な知識がさらに必要であれば, 高校物理参考書の「波動」の章を一読されることをお勧めする.
超音波医学は医学系関係者と工学系関係者の密接な連携により発展してきた.本書が,医学系と工学系の間にあるハードルをいくらかでも下げ,日本の超音波医学の発展に貢献できれば幸いである.
平成28年4月
田中直彦
1-1 音の発生と伝搬
1-2 音波のパラメータ
1-3 音 場
1-4 音響特性インピーダンス
1-5 音の反射と屈折および散乱
1-6 減衰・干渉・回折
1-7 ドプラ効果
2章 生体内の超音波
2-1 音速と音響特性インピーダンス
2-2 減 衰
2-3 干 渉
2-4 非線形現象
2-5 音響放射圧
3章 超音波プローブ
3-1 超音波プローブの基本的な構造と特性
3-2 電子走査
3-3 送信ビームフォーミング
3-4 受信ビームフォーミング
3-5 リニアアレイプローブの空間分解能
3-6 セクタ電子走査
3-7 サイドローブとグレーティングローブ
4章 パルスエコー法
4-1 パルスエコー法の原理
4-2 パルスエコー法における空間分解能
4-3 表示モード
4-4 走査方式
4-5 音響的フレームレート
4-6 STC
4-7 対数圧縮
4-8 スキャンコンバータ
5章 ドプラ法
5-1 連続波ドプラ法の原理
5-2 パルスドプラ法の原理
5-3 パルスドプラ法における限界
5-4 ドプラスペクトルの表示
5-5 スペクトル表示におけるエイリアシング
5-6 HPRF法
5-7 スペクトル表示のための信号処理
5-8 カラーフローマッピング(CFM)
5-9 CFMにおけるMTIフィルタの必要性
6章 安全性
6-1 超音波の生体作用
6-2 機械的作用と熱的作用の指標
6-3 安全性に関するガイドライン
6-4 電気的安全性
参考文献
索引
数式チェックリスト
NOTE
周波数とは?
ホイヘンスの原理
dBとは?
N,Paとは?
連続波・パルス波・バースト波
波形とスペクトル
線形と非線形
圧電効果・逆電圧効果
インパルス信号
パルスに関する用語
バースト波の性質
回転と正弦波
標本化定理