子宮頸部病変の診断のスタンダードをめざした腫瘍病理鑑別診断アトラス!
腫瘍病理鑑別診断アトラス
子宮頸癌第2版
内容
序文
主要目次
「腫瘍病理鑑別診断アトラス 子宮頸癌」が2009年4月に発刊されてから9年が経過し,その間に婦人科腫瘍の領域において数々の疾患の概念が大きく変わった.初版は2003年に出版された世界保健機関による腫瘍組織分類(WHO分類 第3版)に準拠していたが,2014年に分類が改訂され,WHO分類 第4版が出版された.それに伴い,2012年に出版された「子宮頸癌取扱い規約 第3版」の改訂作業が始まり,2017年7月に「子宮頸癌取扱い規約 病理編 第4版」として出版された.したがって,本書はその内容において少なくとも15年分の新知見を盛り込んでアップデートされたことになる.このアップデートの背景には子宮頸癌の発生において重要な役割を果たすヒトパピローマウイルスhuman papillomavirus(HPV)の生物学的特性と前駆病変の自然経過や発癌過程の詳細が明らかになったことに加え,HPVが関与しない子宮頸癌の存在が広く認識されるようになったことが挙げられる.特に,扁平上皮癌の前段階である子宮頸部上皮内腫瘍cervical intraepithelial neoplasia(CIN)に代わり,ベセスダシステムBethesda systemで提唱された細胞診判定用語である扁平上皮内病変squamous intraepithelial lesion(SIL)が組織診断用語として使用されることになり,従来はCIN1からCIN3という3分類法であったものがlow-grade SIL(LSIL)およびhigh-grade SIL(HSIL)からなる2分類法となった.また,子宮頸部腺癌の枠組みも大きく変わり,予後不良かつHPV 非依存性の発癌経路により発生する胃型粘液性癌が新たな腺癌の組織亜型としてWHO分類 第4版に採用された.さらに,これまで単一の疾患とみなされてきた子宮頸部腺癌が,生物学的態度や異なる治療戦略が必要となる多彩な腫瘍群であると考えられるようになった.これらは極めて大きなパラダイムシフトであるといえる.
本書はWHO分類 第4版および子宮頸癌取扱い規約 病理編 第4版に準拠しているが,日常の病理診断に資するため,定義や概念,鑑別診断を含む診断上の要点について解説し,かつ豊富な図表を精選して掲載した.今回の編集者および執筆者の何人かは子宮頸癌取扱い規約およびWHO分類の改訂に直接関わっており,その他の執筆者も病理診断あるいは婦人科診療の第一線で活躍をされている.これらの執筆陣の尽力により,本書は実用的であるのみならず,子宮頸部腫瘍病理全体を立体的に俯瞰できるものとなったと信じている.
平成30年4月
安田 政実
三上 芳喜
この「腫瘍病理鑑別診断アトラスシリーズ」は日本病理学会の編集協力のもと,刊行委員会を設置し,本シリーズが日本の病理学の標準的なガイドラインとなるよう,各巻ごとの編集者選定をはじめ取りまとめを行っています.
腫瘍病理鑑別診断アトラス刊行委員会
小田義直,坂元亨宇,深山正久,松野吉宏,森永正二郎,森谷卓也
I.WHO分類と子宮頸癌取扱い規約
1.一般的事項
2.扁平上皮病変
3.腺癌
4.その他
II.ベセスダ分類改訂にみる細胞診の現状
III.検体の取扱い方
1.検体の固定から病理診断科/部への提出まで
2.肉眼所見の観察
3.切り出しの基本と実際
4.病理診断報告書の記載とその臨床的意義
第2部 組織型と診断の実際
I.扁平上皮系腫瘍
1.扁平上皮内腫瘍:SIL/CIN
1.分類の変遷
2.LSIL/CIN1(mild dysplasia)
3.HSIL/CIN2(moderate dysplasia)
4.HSIL/CIN3(severe dysplasia/CIS)
5.HPVとin situ hybridization(ISH)による検出
6.免疫組織化学マーカー
7.免疫組織化学の応用
8.鑑別診断
2.通常型扁平上皮癌
3.特殊型扁平上皮癌
1.乳頭状扁平上皮癌
2.類基底細胞癌
3.コンジローマ様癌
4.疣(いぼ)状癌
5.扁平移行上皮癌
6.リンパ上皮腫様癌
7.発癌メカニズム
4.良性腫瘍および腫瘍様病変
II.腺系腫瘍
1.上皮内腺癌
2.通常型内頸部腺癌
3.粘液性癌
1.概念・分類
2.胃型粘液性癌
3.腸型粘液性癌
4.印環細胞型粘液性癌
5.特定不能な粘液性癌(粘液性癌,NOS)
4.特殊型腺癌
1.漿液性癌
2.明細胞癌
3.中腎癌
5.良性腫瘍および腫瘍様病変
1.頸管ポリープendocervical polyp
2.Naboth(ナボット)囊胞nabothian cyst
3.トンネル・クラスターtunnel cluster
4.微小腺管過形成microglandular hyperplasia(MGH)
5.分葉状頸管腺過形成lobular endocervical glandular hyperplasia(LEGH)
6.中腎遺残および過形成mesonephric remnants and hyperplasia
7.Arias-Stella(アリアス-ステラ)反応
8.卵管類内膜化生tuboendometrioid metaplasia
III.その他の腫瘍
1.腺扁平上皮癌
2.腺様基底細胞癌
3.腺様囊胞癌
4.神経内分泌腫瘍
1.用語に関する問題
2.低異型度神経内分泌腫瘍
3.高異型度神経内分泌癌
4.鑑別診断
5.未分化癌
6.間葉系腫瘍
1.平滑筋肉腫
2.横紋筋肉腫
3.胞巣状軟部肉腫
4.類上皮血管周囲細胞腫(PEComa)
5.筋線維芽細胞腫
6.間質性子宮内膜症
7.その他の間葉系腫瘍,腫瘍類似病変
7.上皮・間葉系混合腫瘍
1.腺筋腫
2.腺肉腫
3.癌肉腫
8.色素性病変
1.青色母斑
2.悪性黒色腫
第3部 鑑別ポイント
I.SIL/CINと鑑別を要する病変
1.ホルモン環境による変化
2.扁平上皮化生
3.尖圭コンジローマ
4.移行上皮化生
5.類基底細胞過形成
6.扁平上皮癌
7.重層性粘液産生上皮内病変(SMILE)
8.人工的な要素
II.コイロサイトーシス
III.低分化型扁平上皮癌・腺癌の鑑別
IV.上皮内腺癌と鑑別を要する病変
V.頸部腺癌と体部腺癌の鑑別
VI.鑑別診断における免疫組織化学の応用
1.非腫瘍性か腫瘍性かの鑑別に用いられるマーカー
2.腫瘍組織型の鑑別に用いられるマーカー
3.組織亜型の鑑別に用いられるマーカー
4.予後・転帰の推測に用いられるマーカー
第4部 臨床との連携
I.子宮頸癌の疫学
1.頸癌の歴史と疫学
2.頸癌前癌病変に対する考えの変遷
3.世界における頸癌の発生頻度
4.日本における頸癌の発生動向と予後
5.子宮(頸)がん検診
6.HPVの感染状況とワクチン
II.HPV感染の生物学と腫瘍原性
1.ハイリスクHPV感染と頸癌
2.免疫応答とHPVの排除
3.HPVによる免疫回避
4.HPVに対する免疫寛容の成立機序
5.HPV感染後の発癌のメカニズム
III.子宮頸癌の進行期分類と治療方針・予後
IV.組織学的治療効果判定
V.病理診断報告書の記載
1.一般事項
2.生検
3.円錐切除,LEEP
4.手術
索引