心エコーを学ぶ者が一度は見ておくべき画像を集めました!正常例から代表的な病態・疾患,術後のエコーまで収載!
典型画像を見て学ぶ
心エコー図鑑
内容
序文
主要目次
書評
皆様が子供の頃,図鑑でまだ見ぬ動物や昆虫,植物を見てワクワクした思い出はありませんか? 図鑑を開いてまず目に飛び込んで来たのは,色とりどりのきれいな図や写真だったと思います.そして,図鑑を見ることは,いつもさまざまな分野における大切な学びの場でした.
今回,心エコーを学ぼうとする皆様にも,そのような学びの場を提供したいと本書を企画しました.心エコーの教科書を参照するときに,真っ先に探すところはどこでしょうか? やはりそれぞれの病態(あるいは正常像)に特徴的あるいは典型的な心エコー画像だと思います.そして,教科書で見た印象的な画像は,その後のキャリアの中で心エコー診断の基準となっていくものです.
本書では,全体を正常編,疾患編,術後編と三部構成に分け,典型的な画像を覚えてもらいたい項目を列挙いたしました.そして,心エコー図のエキスパートとして信頼できる先生方を選任し,それぞれの項目を学ぶうえで一度は見ておくべき典型画像のピックアップと解説をお願いしました.各項目の冒頭にはそれぞれの疾患の概略の解説とともに,心エコー評価を行ううえで知っておくべきポイントがまとめてあります.また,心エコー画像以外にも,病態の理解に必要なシェーマや画像,表などが適宜追加してあります.これらの画像と解説は,本書にご協力いただいたエキスパートの先生方の積み重ねた経験とスキルに基づくものです.読者の皆様には是非本書を手にとっていただき,エキスパートの先生方の経験とスキルを共有していただければと思います.きっと,この本を通して心に焼き付けた画像と知識は,今後,皆様の的確な心エコー診断の大きな力となることでしょう.
最後に,皆様には是非忘れないでいただきたいことがあります.それは,この本に収められた画像の多くは,病気に苦しむ患者さんによって提供されたということです.医療に携わる私達が,患者さんのために学び,働くことは当たり前です.一方で,私達もまた,患者さんによって学ばせていただき,成長していくことができるのです.私達はこのことを心に留め,常に感謝の気持ちを持ち続けたいものです.そして,患者さんを通して学ばせていただいたことを,よりよい医療として還元することこそが,患者さんへの恩返しになります.読者の皆様に,本書で身につけた知識を明日からの的確な心エコー診断へと活かしていただければ,執筆者・編集者一同の大きな喜びです.
大門 雅夫
01 正常断層像(経胸壁心エコー図)
02 正常Mモード像
03 正常パルスドプラ波形
04 正常組織ドプラ波形
05 正常ストレイン画像
06 正常断層像(経食道心エコー図)
07 正常3次元経食道心エコー図(僧帽弁・大動脈弁・三尖弁)
08 異常と間違えやすい正常構造物と遺残物
09 知っておくべきアーチファクト
10 左室拡張能指標
11 左心耳機能と血流パターン
Part Ⅱ 疾患編
A.弁膜症
01 僧帽弁狭窄
02 一次性僧帽弁逆流
03 二次性僧帽弁逆流
04 大動脈弁狭窄
05 大動脈弁逆流
06 三尖弁逆流
07 感染性心内膜炎
08 大動脈二尖弁・一尖弁
09 大動脈四尖弁
10 Libman-Sacks心内膜炎
11 がんに伴う非細菌性血栓性心内膜炎
12 PISA法の限界
B.冠動脈疾患
01 急性心筋梗塞
02 急性心筋梗塞に伴う機械的合併症
03 陳旧性心筋梗塞
C.特発性心筋症
01 拡張型心筋症
02 肥大型心筋症
03 肥大型心筋症の合併症
04 肥大型心筋症─PTSMA術中・術後
05 拘束型心筋症
06 不整脈原性右室心筋症
07 ミトコンドリア心筋症
08 たこつぼ心筋症
09 急性心筋炎
10 心内膜線維弾性症
11 左室緻密化障害
D.二次性心筋症
01 高血圧
02 心サルコイドーシス
03 心アミロイドーシス
04 Fabry病
05 脚気心
06 甲状腺機能亢進症
07 甲状腺機能低下症
08 抗がん剤による心筋障害
09 周産期心筋症
10 筋ジストロフィーに伴う心筋症
E.心膜疾患
01 心嚢液貯留・心タンポナーデ
02 急性心膜炎
03 心膜欠損
04 収縮性心膜炎
F.先天性心疾患
01 心房中隔欠損
02 心室中隔欠損
03 動脈管開存
04 房室中隔欠損
05 Ebstein病
06 Fallot四徴症
07 部分肺静脈還流異常
08 完全大血管転位
09 修正大血管転位
10 右室二腔症
11 肺動脈弁狭窄(弁下・弁・弁上)
12 卵円孔開存
13 心房中隔瘤
14 Eisenmenger症候群
15 三心房心
G.心臓腫瘍など
01 原発性良性心臓腫瘍
02 原発性悪性心臓腫瘍
03 転移性心臓腫瘍
04 Calcified amorphous tumor(CAT)
05 血栓症
H.大動脈疾患
01 大動脈瘤
02 大動脈解離
03 血管炎など
I.肺高血圧
01 慢性肺血栓塞栓・肺動脈性肺高血圧
02 急性肺血栓塞栓
Part Ⅲ 術後編
A.心臓手術後
01 人工弁機能不全
02 TAVI術後
03 弁形成術後の合併症
04 MitraClip術後
05 Fallot四徴症術後
06 Fontan術後
07 完全大血管転位と手術法
08 心房位血流転換術後(Senning・Mustard術)
09 Jatene術後
10 Rastelli術後
11 心房中隔欠損デバイス閉鎖術後
12 経カテーテル的左心耳閉鎖術後
B.補助循環
01 左室補助人工心臓(LVAD)植込み後
02 IMPELLA留置後
索引
数年前になるが,編集者の大門先生が小学生のご子息を連れて,阿波踊りに参加され,いっしょに鳴門の海で遊んだことがある.おそらく大門先生は,「昆虫」「恐竜」とか「宇宙」といった図鑑を息子さんといっしょに楽しまれていたのだろう.本書のタイトルをアトラスとか,症例集でなくて,“図鑑”とされたのは,そのような時にこの書籍のアイデアが閃いたのだと容易に想像することができる.図鑑には科学的に正確な図が描かれてあるので,小学生から大人まで楽しむことができる.本書に掲載された多くのエコー図も美しく,各疾患の特徴をよく表している.経胸壁心エコー図だけでなく,経食道心エコー図や最新の心エコー図法についても収載されており,心エコー図検査を始めた初心者からベテランまでが楽しみながら勉強することができる書籍である.
“図鑑”という名にふさわしく,本書は全ページカラー刷りで,各項目が1ページあるいは見開きの2ページでまとめられており,ページ構成がとてもクールである.それぞれの心エコー図も上記のようにまさに“図鑑”の絵のごとく美しいものが多く,心エコー図はまずきれいな絵を撮ることから始まる,という著者らの思いが伝わってくる.最新のstructural heart disease(SHD)関連や先天性心疾患の術後症例などの心エコー図まで掲載しており,さすがである.
東大というと,変わり者だったり,一般常識からずれていて付き合いにくいというイメージがあるが,大門先生にはそんなところが全くない.とても陽気で気さくな方で,最近はちょっと砕けすぎていることがあってこちらが心配になるほどである.ただ,仕事はきっちりこなされるので,各方面のガイドライン作成にも多く関わられていらっしゃる.そのような,やることはやるというこだわりを,本書からも感じ取ることができる.各疾患における,「心エコーでの評価ポイント」,そして「One Point Advice」などのコラムがとても上手にまとめられていて,ここだけを読み拾っていってもかなりの勉強になる.
本書に対して批判的なことはあまり感じなかった.各図の体裁を整えるために,図の両端に黒い帯が入っているものがある.帯の色をもう少し黒くしてエコー図の背景色といっしょにしたほうがすっきりしたのではないかと思う(印刷の都合でやむを得なかったらしい).また,各エコー図の動画をWEBで見ることができたらさらに良かった(価格を抑えるために,あえてそうしなかったのかもしれないが).
本書は,心エコー図検査に携わる医師,技師の初心者からベテランまでの万人に自信をもってお勧めすることができる書籍である.著者の先生方,そして,編集者である大門先生の苦労をねぎらいたい.
(「心エコー」2022年8月号(23巻8号)掲載)