病理解剖のスタンダードな知識・技術を,豊富な写真とイラストによってわかりやすく解説
図解病理解剖ガイド
内容
序文
主要目次
我が国において病理解剖が医療の現場に導入されて約150年が経過した.最近の病理解剖件数の動向は1980年代をピークに減少傾向にあり,今後しばらくは回復する兆しがみえない.そのため,若手病理医が先輩からその技術を学ぶ機会も減少している.このような状況においてこそ,若手病理医および病理解剖を補佐する臨床検査技師にとって病理解剖の標準的な知識・技術を学べる書籍が必要である.東京都健康長寿医療センターは開設当初から病理解剖を重視し,そこから多くを学んできた.そこで,東京都健康長寿医療センターにおける病理解剖に関する技術や検体の保存方法などを整理し記録することにより,現代の病理解剖に関わるニーズに応えようと考えた.
本書は,若手病理医・臨床検査技師を対象に,病理解剖全般について解説したテキストである.初学者でも容易に理解できるよう写真やイラストを中心に,外表所見の取り方,皮膚切開法から始まり,各臓器の取り出しや所見の取り方,解剖後の処置までをわかりやすく解説した.実際の病理解剖は症例ごとに異なるため臨機応変に対応する必要があるものの,基本的な手技は共通するものがあり,それが身に着くよう配慮した.また,臓器別だけではなく疾患別の検索法も収載している点が,既存の病理解剖テキストにはない特徴である.
臓器の取り出し方や肉眼所見の取り方の基本的な手技は今も昔もさほど変わらないと思われるが,病態解明のための検査技術は著しく進歩した.蛋白質発現や遺伝子変異の検出などを含む検査技術も病理解剖に導入されつつあり,新しい時代に対応していく必要がある.具体的には,採取した検体を適切に処理し保存することが新技術に対応する第一歩であるので,これらについても記述し,「新しい時代の病理解剖」にも耐えうるものにしようと努めた.
さらに,病理解剖はご遺族の承諾があって成り立つことであり,解剖室から送り出されたご遺体が荼毘に付されるまでの間,適切な状態を維持するよう十分配慮した.この点に関しては,病理解剖後のエンゼルケアに詳しい専門の看護師に協力を得て対応した.
本書は執筆者のみで完成したわけではない.病理解剖をさせていただいた患者さんと病理解剖を承諾していただいたご遺族のご協力なくして本書は誕生しなかった.まず,これらの方々にこの場を借りて感謝の意を表したい.また,病理解剖業務に従事し,病理解剖に関わる技術や情報の管理法を試行錯誤しながら構築してきた諸先輩方にも敬意を表したい.さらに,文光堂編集室諸氏には粘り強くご支援いただいたことにお礼を申し上げる.
本書がこれから病理専門医を目指す研修医およびその指導医,病理解剖をサポートする臨床検査技師,看護師にとって少しでも役立つとともに,病態の解明にも寄与し,その成果が社会に還元されることを願うものである.
平成30年11月
新井冨生
1 病理解剖についてまず知っておきたいこと
2 病理解剖前に確認しておくこと
II.病理解剖の実際とその手技
1 外表所見の取り方
2 皮膚切開の入れ方
3 開腹・開胸の手技
4 心嚢の開け方と心臓の取り出し方
5 肺の取り出し方
6 腹部臓器の取り出し方
7 骨盤臓器の取り出し方
8 大動脈・頸部臓器・大腿組織の取り出し方
9 大腿骨・胸骨・椎体骨の取り出し方
10 脳・脊髄の取り出し方
11 その他
III.所見の取り方の基本と鑑別疾患
1 外表所見・皮膚所見の取り方
2 体腔・体腔液・屍体血液量
3 心臓
4 肺(喉頭・気管を含む)
5 口腔・咽頭
6 食道・胃
7 小腸・大腸
8 肝胆道系(胆嚢を含む)
9 膵臓
10 脾臓
11 腎臓
12 尿管・膀胱
13 男性・女性生殖器
14 内分泌臓器(副腎・甲状腺・上皮小体・下垂体)
15 脳・神経および関連組織の所見の取り方
16 骨および骨髄の所見の取り方
IV.特定の疾患に対する特殊検査
1 異性間臍帯血移植:性染色体FISH法
2 解剖例からの細胞診標本作製
3 解剖例における電子顕微鏡試料作製法(戻し電顕法)
4 感染症の検索
5 刺激伝導系の検索
6 血管炎の検索
7 神経変性疾患(ALSを含む)の検索
8 内耳の検索
9 Creutzfeldt-Jakob病の解剖
V.解剖後の処置法
1 縫合の仕方
2 感染防止
3 エンゼルケア
VI.病理解剖で採取した検体の保存法
VII.肉眼所見に基づくまとめ
VIII.臓器重量の年齢変化
IX.データの管理法
付録1 死体解剖保存法
付録2 異状死について
索引