分子腫瘍学の“今知りたい”のすべてがここに!
病理と臨床 2022年臨時増刊号(40巻)
がんゲノム医療時代の分子腫瘍学
内容
序文
主要目次
がんゲノム医療時代の分子腫瘍学
発刊にあたって
これまで病型分類は組織学的特徴をもとになされてきたが,いくつかの腫瘍および疾患単位では遺伝子異常をもとにした疾患名が用いられている.これらの変化は,次々と発表される全ゲノム解析・RNA解析などのゲノム解析結果に基づき,稀な腫瘍までカバーされつつある結果ともいえる.また,分子異常に基づいた多くの治療法が確立され,それは臓器横断的に適応されるものもある.同時に,がんゲノム医療を通じて得られた遺伝子変異情報はクリニカルシークエンスとして実臨床に還元されると共に,臨床治験の大きな推進力ともなっている.すなわち,これらの分子腫瘍学の発達により,それぞれの腫瘍で多くの知見が得られ,診断や治療に生かされている.
「病理と臨床」では分子腫瘍学の重要性に鑑み,定期的に臨時増刊号としてその時代時代の最新の知見を集約してきた.しかしながら,2016年(34巻)の「癌の分子病理学―病理診断から治療標的探索まで」が最新であり,以降,がんゲノム医療が実際の医療として実施されると共に,分子病理専門医制度も開始されている.そこで,もう一度これらの知見を集約し,最新の分子腫瘍学をまとめることとした.分子標的治療のためのコンパニオン診断についての解説や分子病理専門医取得のためのテキストについてはそれぞれ個別の特集や雑誌として存在するため,この臨時増刊号では純粋に分子腫瘍学に焦点を当て,現時点において解明されていること,これから解析しなくてはいけないことをまとめることにした.
まず第1部では分子腫瘍学序論として,がんの分子生物学の総論および解析方法を挙げ,第2部で多くの腫瘍で異常が見出されている代表的なパスウェイについて概説している.第3部では各論を取り上げ,家族性腫瘍および各臓器の腫瘍について最新の知見を含めての解説をお願いした.第4部では現在のゲノム医療を推進してきたパネル検査について展望も含めて記載している.第1部・第2部と第3部とは重複する内容もある.しかしながら,これら総論と各論は共に横糸・縦糸の関係に当たり,それらを組み合わせることで分子腫瘍学を網羅することができると考えている.
分子腫瘍学はさらなる進歩が望まれ,また,実際に日々変遷していることから,本書の知見は記載された時点での知識にしかすぎず,それぞれの知見のアップデートは読者にゆだねられる.しかしながら,ある時点での参考書として一冊の本としてまとめることは意義があると思っている.本臨時増刊号が,読者の研究・診療に役立つことを願ってやまない.
監修:谷田部 恭,宇於崎 宏,北川 昌伸
編集:西原 広史,関根 茂樹,榎本 篤,石川 俊平
A.がんの分子生物学
1 ゲノムの構成
2 遺伝子バリアントの表記方法
3 がん遺伝子とがん抑制遺伝子
4 エピジェネティクス(1)メチル化異常
5 エピジェネティクス(2)ヒストン修飾の異常
6 エピジェネティクス(3)RNAによる制御
7 遺伝子異常と多段階発がん
B.解析法
1 FISH・ISH
2 分子病理学的検索のための核酸抽出
3 PCR法
4 ヒトゲノム研究におけるマイクロアレイ解析(CGH・SNP・メチル化など)
5 次世代シークエンシング(1)次世代シークエンシングの原理
6 次世代シークエンシング(2)がんゲノム医療における変異解析
7 次世代シークエンシング(3)RNAシークエンシング解析
8 次世代シークエンシング(4)リキッドバイオプシー
第2部 腫瘍発生にかかわる分子機構
1 WNTシグナル経路
2 MAPK経路
3 PI3K/AKT/mTOR経路
4 TGF-β経路
5 細胞周期とチェックポイント制御因子
6 DNA修復機構
第3部 がんの分子病理学(各論)
A.家族性腫瘍
1 Lynch症候群
2 遺伝性びまん性胃がん
3 遺伝性乳癌卵巣癌症候群
4 Li-Fraumeni症候群
5 家族性大腸腺腫症
6 多発性内分泌腫瘍症
B.臓器がん
1 脳腫瘍
2 頭頸部がん・口腔がん
3 唾液腺腫瘍
4 甲状腺がん
5 食道がん
6 胃がん
7 大腸がん
8 GIST
9 肝細胞がん
10 胆道がん
11 膵がん
12 肺がん
13 乳がん
14 腎がん
15 尿路がん
16 前立腺がん
17 子宮体がん
18 子宮頸がん
19 卵巣がん
20 骨軟部腫瘍
21 皮膚腫瘍・悪性黒色腫
22 悪性中皮腫
23 白血病
24 リンパ腫
第4部 遺伝子パネル検査
1 がんゲノム医療の制度
2 がんゲノム医療(1)OncoGuideTM NCCオンコパネルシステムの特徴
3 がんゲノム医療(2)FoundationOne® CDxがんゲノムプロファイルの特徴
4 がんゲノム医療(3)血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いたがん遺伝子パネル検査の特徴
5 小児・AYAがん遺伝子パネル検査の展望
6 造血器遺伝子パネル検査の展望
7 遺伝性腫瘍に対する多遺伝子パネル検査
終わりに―がんの遺伝子診断の未来―
索引