リハ最前線で得た運動療法の知識・技術のエッセンス.臨床結果を導くための一冊!
膝関節運動療法の臨床技術
運動器診療Next Decadeにつながるエッセンス
内容
序文
主要目次
あなたが臨床において,膝に障害がある患者様に接した時
「自信を持って治療ができていますか?」
そして
「その治療は正しい方法で行えていますか?」
自信を持って「YES」と答えることができるセラピストが何人いるだろうか?
たとえば膝のROM制限がある場合,可動域を広げるためにエクササイズを行うが,うまく改善できないことも多いかと思う.また,痛みが生じた場合「このまま続けるべきだろうか?」と戸惑うことも多いかもしれない.
これは筋力エクササイズも同様である.大腿四頭筋の筋力エクササイズを行っていて,痛みが生じた場合,すぐに中止したりしていないだろうか?実は痛みが出ていても,エクササイズを続けてよい場合と中止しなければいけない場合がある.その判断ができているだろうか?
また,膝を治療しているとき,膝にばかり目を向けていることはないだろうか?ROMエクササイズも筋力エクササイズも,股関節や足関節の位置が適切なポジションを取っていなければ,膝の機能は改善せず臨床結果が伴わないことは多くみられる.
私自身は臨床1年目からかなり多くの症例を経験してきた.その中でも,特に膝を中心とした下肢のスポーツ整形外科疾患を専門的に診せていただき,そして多くの症例を診ることで「この疾患はこういう傾向がある」とか「こうすれば治っていく」などの経験則を学んでいった.
このようにあまり勉強もせず,ただひたすらに臨床だけをやってきて,生意気にも「自分が一番患者数を診ている.自分が一番治せる」などと考えていた井の中の蛙だった時代もあった.しかし,臨床から得られる経験則だけでは治らない症例を経験することが増えてきた.そんな時に出会ったのが機能解剖学という考え方である.この考え方を知ることができて,今までの臨床経験での知識が学問としてまとまってきた.つまり今まで,「このようにすれば何となく治ってきた」ということが,「このような原因がありこれを治療することにより治っている」というふうに理解し,説明できるようになったのである.こうして自分の臨床力は格段に飛躍してきたと感じている.
しかしながら,実際に臨床を行うことが最も重要であり,臨床で培った感覚や技術は机上の空論には絶対に劣らない,という考えに変わりはない.本書の企画をいただいたときに,最初から教科書を書くつもりはなかった.膝に関する教科書的な本は諸先輩方が数多く執筆されており,私が教科書を書いてもあまり意味はない.本書の中にはエビデンスのないことも書いてあるが,私はエビデンスだけが大事だとは決して思わない.もちろんエビデンスは重要なことであるが,エビデンスだけでは患者は治らない.感覚的・主観的な治療技術が,プロフェッショナルとして極めて大事だと考えている.頭でっかちで,いざ患者を目の前にして何もできないというのは全く意味がない.それよりも,機序はよくわからないが治療すると痛みが良くなっていくというほうが,患者は何倍も幸せになると考えている.このように教科書ではわからない,臨床でしかみえないことが多々あるのが現実であり,この部分を本書の中で伝えていきたいと考えている.
また本書にはスペシャルテストと運動療法に関して,相反する事項である「コツ」と「ピットフォール(落とし穴)」について書いている.たとえば同じ治療である,膝のROMエクササイズを行っても,私とほかのセラピストではその臨床結果に差が出てくる.なぜならそれは,見た目には同じ方法でやっているのだが,細かい「コツ」のようなものがあるからだ.この小さな差が積み重なることにより,臨床結果に大きな差が生じる.また,他の病院からの紹介で患者を診ることが多々あるが,私は必ずその病院でどのようなリハビリをやってきたのかを細かく聴く.そしてそのあとに,私の説明したやり方でエクササイズを行ってもらう.すると短時間で良好な結果が出てくる.これによって自分の治療の有効性を確認し,治療の「コツ」を蓄積してきたのである.このように,エクササイズの「コツ」と「ピットフォール」を理解することでも,患者を正しい方向へ導くことができて,自分自身も治療のスキルを向上できるのである.
現時点(2018年12月)でACL再建術の症例を3,000例以上,半月板縫合術・切除術の症例を1,000例以上,その他MCL・LCL・PCLの修復や再建術,膝蓋骨脱臼,膝蓋腱断裂,膝関節周囲の骨折などさまざまな症例を担当させていただき,オリンピック・プロレベルから趣味レベルまでさまざまなスポーツ復帰に携わってきた.そして,その経験の中で知り得た知識や技術を中心に本書を執筆した.教科書には決して載っていない,細かい「コツ」を大切にし,臨床に即した内容になっている.是非とも参考にしていただき,臨床で試し,忌憚のないご意見をいただければ幸いである.
最後に本書の発刊にあたり,怠け者の私を根気強くサポートいただいた文光堂の中村晴彦氏,臨床業務の忙しい中,図のモデルや文章の校正に協力していただいた,田中龍太先生(関東労災病院中央リハビリテーション部)と志田峻哉先生(関東労災病院中央リハビリテーション部)に感謝を申し上げます.
2018年12月
今屋 健
1 骨性構造
1 大腿骨femur
2 脛骨tibia
3 膝蓋骨patella
2 膝関節の骨ランドマークの触診の流れ
1 膝蓋骨
2 膝関節裂隙
3 大腿骨内側顆・外側顆,内側上顆・外側上顆
4 脛骨粗面,Gardy結節,腓骨頭
5 脛骨内側顆・外側顆
3 筋性構造
1 大腿四頭筋
2 大腿筋膜張筋(腸脛靱帯)
3 内側ハムストリングス
4 外側ハムストリングス
5 膝窩筋
6 腓腹筋
4 膝関節の運動学
1 大腿脛骨関節femorotibial joint(FT関節)
2 膝蓋大腿関節patelo-femoral joint(PF関節)
第2章 臨床的膝タイプの見極め
1 ジョイントプレイの見極め
1 KT-2000,KNEELAXから読み取るジョイントプレイとスティフネス
2 実際のグラフを読み取り,どう解釈するか?
2 伸展可動域の見極め
3 臨床的膝タイプの見極め
Column 膝関節の伸展可動域
第3章 膝関節のスペシャルテストの習得
スペシャルテストを行ううえでの最重要事項
1 ラックマンテスト
1 ラックマンテストの臨床的意義
2 持ち手
3 ラックマンテストの手順とコツ
2 前方引き出しテスト
1 前方引き出しテストの臨床的意義
2 持ち手
3 前方引き出しテストの手順とコツ
3 Nテスト
1 Nテストの臨床的意義
2 持ち手・
3 Nテストの手順とコツ
4 ピボットシフトテスト・ジャークテスト
1 ピボットシフトテスト・ジャークテストの臨床的意義
2 持ち手
3 ピボットシフトテスト・ジャークテストの手順とコツ
5 後方引き出しテスト
1 後方引き出しテストの臨床的意義
2 持ち手
3 後方引き出しテストの手順とコツ
6 外反ストレステスト・内反ストレステスト
1 外反ストレステスト・内反ストレステストの臨床的意義
2 持ち手
3 外反ストレステスト・内反ストレステストの手順とコツ
7 ダイアルテスト
1 ダイアルテストの臨床的意義
2 持ち手
3 ダイアルテストの手順とコツ
4 後外側不安定性テストの持ち手
5 後外側不安定性テストの手順とコツ
8 マックマレーテスト
1 マックマレーテストの臨床的意義
2 持ち手
3 マックマレーテストの手順とコツ
9 膝蓋跳動テスト
1 膝蓋跳動テストの臨床的意義
2 持ち手
3 膝蓋跳動テストの手順とコツ
10 膝蓋下脂肪体の評価
1 膝蓋下脂肪体の評価の臨床的意義
2 持ち手
3 膝蓋下脂肪体の評価の手順とコツ
11 膝蓋上囊の評価
1 膝蓋上囊の評価の臨床的意義
2 持ち手
3 膝蓋上囊の評価の手順とコツ
12 膝関節の伸展制限(HHD)の評価
1 HHDの評価の臨床的意義
2 被検者を背臥位にしての伸展制限の評価 手順とコツ(HHDを評価する前に)
3 HHDの評価の手順とコツ
第4章 膝関節の運動療法
結果の出せる運動療法の優位性(=優先順位)
1 関節可動域エクササイズ
1 ヒールスライド;浅屈曲可動域エクササイズ(0〜100°の屈曲)
2 ヒールスライド;深屈曲可動域エクササイズ(100°以上の屈曲)
3 完全伸展可動域エクササイズ
2 筋力エクササイズ
1 クアドセッティング
2 SLR(straight leg raising)
3 アクティブヒールスライド
Column 荷重位で筋活動を決定する因子
4 クォータースクワット
Column さまざまな肢位,足圧中心でのスクワット
Column スポーツ種目の違いによるスクワット
5 レッグランジ
6 レッグエクステンション
7 レッグカール
3 歩行エクササイズ
4 軟部組織に対するエクササイズ
1 膝蓋下脂肪体
2 膝蓋上囊
3 皮膚
Column 適正負荷の法則(負荷に耐えられる関節づくり)
Column トレーニング時の「痛みの法則」
Column 次のトレーニングへ移行するのはどのタイミングか?
Column 抗重力位の法則(非荷重位での筋力トレーニング)
Column 筋力エクササイズ時の膝関節に生じる剪断力(OKCとCKCの違い)
索 引