臨床現場でのクリニカルリーズニングの参考になる実践書!
生活の行為を紡ぐ作業療法プラクティス
脳血管障害の評価とアプローチ(電子版のみ)
回復期における着眼点と行動プロセス
内容
序文
主要目次
書評
☆図版68点,表組22点,モノクロ写真16点,イラスト・線画23点
平成26年3月31日に発表された作業療法士国家試験合格者は4,740名であり,有資格者数は70,675名となった.一方,平成26年4月の診療報酬改定では,心大血管リハビリテーション料の算定に作業療法士の職名が記載されるなど,作業療法士の活躍する場はますます広くなってきている.さらに,地域包括ケアシステムの中で,「生活行為向上マネジメント」を活用した作業療法も重要性を増してきている.
医療・保健・福祉などの多くの領域で,多くの作業療法士が活躍している中で,ここ数年はマニュアル的書籍が多く発刊されている.しかし,作業療法士にとって大切なことは,個別のニーズに合わせてアプローチができ,そのためのアセスメントができことであるとの想いを強くしていたところ,本書の編集のお話をいただいた.そこで,東祐二先生,渡辺愛記先生と話し合い,「作業療法士のアセスメントする内容と流れがわかりやすいような一冊を」という結論に至り,あわせて,ベテランといわれる作業療法士は,実践の時に「どのように考えて,どのようにしているの?」ということを見える形に表現をしておく必要があると考えた.
今回の編集内容では,「回復期リハビリテーション(回復期リハ)」での「日常生活活動(ADL)訓練」を大切にしたいという思いと,多くの作業療法士が悩んでいるところからと考えて,経験の浅い作業療法士から日頃の臨床業務における悩み事や希望するテーマを聞き取り,選定した.そして,「どのように考えているのか聞いてみたい」と思うような,長年にわたってこの領域に取り組まれてきている作業療法士の先生方に執筆をお願いした.
こうして完成した本書のコンセプトは,教科書的な総論や概論は極力避けて,執筆者が臨床の実践現場で,「何を観察し,どのような情報を入手し,何を考え,何をしているか」というクリニカルリーズニング(臨床推論)を,できる限り図表や文字で表現することにある.経験の浅い作業療法士の臨床実践の思考過程の一助とするだけではなく,臨床実習の指導やあらためて回復期での作業療法実践を考え直したいなど,多くの作業療法士の参考になれば幸いである.
一方,急性期・回復期から生活維持期という在宅生活などの住み慣れた場所,住み慣れた地域での暮らしを積極的に支援する作業療法士の役割は変わることはない.急性期から生活維持期までをシームレスに作業療法を提供するためにも,本書が役立つことを願っている.
このような盛りだくさんの執筆内容の意図にもかかわらず,ご協力をいただいた佐藤浩二先生はじめ当時の湯布院厚生年金病院と,倉持昇先生はじめ東京都リハビリテーション病院の多くの作業療法士の先生方に感謝申し上げます.
2014年6月
常任編集 小林 毅・東 祐二・渡辺愛記
1.急性期
脳血管障害リハビリテーションの流れを理解しよう!
急性期から作業療法士が関わる意義とはなんだろう?
急性期の状態像を把握しておこう!
作業療法実践ステップI 〜基本情報を収集し,リスク管理を行うことが第一歩!〜
作業療法実践ステップII 〜作業療法を始める前にあたっての確認事項!〜
作業療法実践ステップIII 〜急性期における基本プログラム〜
急性期から生活を見据えた作業療法を展開していこう!
急性期は,家族との関わりの重要な時期である!
回復期への移行にあたって申し送りをしっかりと!
2.回復期(回復期リハビリテーション病棟)
回復期リハビリテーション病棟とは
回復期リハビリテーション病棟におけるリハビリテーションの流れ
モーニング・イブニング訓練(ケア)で押さえておくべき視点
OTが病棟生活のなかに入り込んで何をみるか(ADL,その人の生活ぶり,自発性,
他者とのコミュニケーション, 障害を負ってもいきいきと生活しているか?)
他職種とのコミュニケーションをどのように活かすか?
家族との関係で見えてくる退院後の生活
3.移行期
回復期と維持期の境目に位置する移行期を考えるには,回復期と維持期の
両面から考える必要がある
移行期リハビリテーションを実施する
介護老人保健施設を例に「作業療法士の役割」を考える
4.在宅生活期(地域)
維持期における作業療法士の役割
維持期の流れと作業療法の特徴
PART II 評価技術
1.情報収集と評価の組み立て方
評価にあたっての心得
評価の流れ
ミニレクチャー 指示書や診療録でわかること
ミニレクチャー コミュニケーションがとりにくい患者からの情報の聞き出し方
2.観察と全体像への結びつけ方
なぜ観察するのか
何をみるか
全体をみるとはどういうことか
ミニレクチャー 何を見るか① 表情や言動
ミニレクチャー 何を見るか② 姿勢や行動
ミニレクチャー 何を見るか③ 自宅での生活場面で
ミニレクチャー 何を見るか④ 地域や社会の生活場面で
3.患者一人ひとりの生活をみるADL評価
生活をみるためには患者の声をよく聴くこと
「できるADL」と「しているADL」の評価について
患者にとってADLとは
ミニレクチャー 夜間のトイレ動作の評価とアプローチ
4.意味のある作業を見つけるために
意味のある作業とは?
回復期の特徴
評価の場面で
毎日の訓練のなかから
「意味のある作業」が見つかるとき
手がかりになる評価法
5.再発や転倒の危険と作業療法での評価
再 発
転 倒
ミニレクチャー 表面化しない症状に気づくとき〜車椅子上で右に傾くAさん〜
6.目標の設定方法
良い目標の設定とは?
情報を提供する
目標を共有する
ミニレクチャー 回復期病棟から「どこに」退院するのかを決めるとき
PART III 治療技術
1.生活で使える上肢を目指して
患者の訴えを「よく聴くこと・よく観ること」が最良の評価である!
「上肢機能」ではなく,それぞれの「上肢の機能」を思い起こそう!
「上肢の機能」 と 「生活行為のなかの動き (機能) 」 の相互関係に着目しよう!
「作業療法の基本方針」立案は,「生活行為のなかの動き (機能)」の相互関係から
「作業療法アプローチ」の立案? 「ペグを移動すること」が目的ではない?
2. 上肢をうまく使えるようにするために
上肢機能回復の理論を知ろう
「うまく使う」ようにするために必要な評価とは何だろう
効果的に訓練を進めるコツ
ミニレクチャー フィードバック制御とフィードフォワード制御の機能
ミニレクチャー 肩の痛み(予防と対処)
3. 上肢をうまく使うための訓練のバリエーション(進め方,やり方)
麻痺手の状態を理解しよう!
訓練の進め方の基本をマスターする
上肢の機能回復を図る代表的なアプローチとは?
麻痺手の状態に応じたアプローチ方法
ADL・IADL訓練を忘れるべからず!!
4.体幹と下肢の機能と作業療法
体幹と下肢の役割を知ろう!
姿勢と動きの特徴を知ろう!
客観的評価
臨床評価
体幹と下肢への作業療法アプローチ
ミニレクチャー 姿勢調節をうまく機能させる
ミニレクチャー 上肢帯の動きと上肢・体幹の機能
ミニレクチャー 患者の在宅生活をイメージした移動の考え方
5.高次脳機能障害と生活との関連の捉え方
生活場面での困り事の背景を明らかにする
急性期〜回復期のベッド上での活動に限定される時期は,認知機能の廃用を予防する
回復期:道具の扱い方や作業手順の進め方に注目し,動作を分解して誤り(エラー)の特徴をみて症状を鑑別する
失語症がテストや活動場面に及ぼす影響を考慮する
生活行為を再編する:できることを増やし,誤りが生じないように環境を変える
実生活に即して練習する
回復期から地域生活移行期:医学的リハビリテーションから地域社会への切れ目ない(シームレス)移行を図る
支援の輪を広げる
ミニレクチャー 失語症を有する患者とのコミュニケーション
ミニレクチャー 重度の失行症患者への関わり方
ミニレクチャー テストバッテリーでは表面化しない機能
6. こころのケア
脳血管障害患者の多くは戸惑いや先行きの見えない不安を抱えていることを知る!!
高次脳機能障害の有無でアプローチは異なる!!
脳血管障害患者が不安を解消し生活を再構築するための3つのポイントを押さえる!!
拒否されるときは…
作業療法を展開するときの大前提は…
ミニレクチャー 回復に大きな期待を抱いている患者には?
7. 1)「できるADL,IADL」をいかに「しているADL,IADL」にするか
評価に基づいて具体的な生活目標を設定する
「できる活動」を訓練にて獲得する
「している活動」として定着させ,生活の習慣にする
症例紹介
まとめ
ミニレクチャー なかなか「自分でしようとしない」患者への対応は?
ミニレクチャー どこまでアプローチしてよいのか?
7. 2)365日リハビリテーション実施体制と作業療法の提供の仕方・考え方
なぜ,365日リハビリテーション実施体制が求められたのか?
リハビリテーション医療における作業療法の機能・役割は何か?
365日リハビリテーションの実施の現状はどうか?
365日リハビリテーションサービスを提供するにはどのような工夫が必要か?
ミニレクチャー 退院前訪問指導の実際
8. 多職種間の連携と目標設定の考え方
多職種間連携における3つのチームモデル
モーニングケア(早出)やイブニングケア(遅出)をどう捉えるか
目標設定の考え方
ミニレクチャー 作業療法の評価結果をどのように多職種に伝えるか
9.退院先への情報の提供
有用な情報とは何か?
症例を通して具体的にイメージしてみよう!
ミニレクチャー 急性期施設から回復期施設への情報は
ミニレクチャー 回復期施設から移行期施設への情報は
ミニレクチャー 回復期施設から在宅・地域施設への情報は
ミニレクチャー 施設外の作業療法士に伝えることと他職種に伝えること
索 引
本書は,回復期おける医療機関から地域生活を見据え,「脳血管障害患者の作業療法をどのように考えて,どのようにしたらいいの?」と不安に感じているOTの道標となる1冊である.なぜならば,経験の浅いOTから日ごろの臨床業務における悩みごとや希望するテーマを聞き取り,それを基に内容を選定し,ベテランOTたちが執筆しているからである.日常感じるさまざまな疑問の答えが満載の指南書だ.
それだけでなく,作業療法の核となる個別のニーズに合わせたアプローチの実践を重要課題とし,適切なアプローチとともにそれを導くアセスメントのあり方に軸においた解説がされている.単なるhow-toに終わらず,ベテランOTが実践の場で「何を観察し,どのような情報を入手し,何を考え,何をしているのか」というクリニカルリーズニング(臨床推論)に図表で説明が補強され,読み手の理解を深め,次の実践での応用につながるものであるに違いないと感じた.
内容は,「PARTⅠ 生活を見据えた作業療法の取り組み」,「PARTⅡ 評価技術」,「PARTⅢ 治療技術」の3部構成となっている.
「PARTⅠ 生活を見据えた作業療法の取り組み」では,急性期・回復期・移行期・在宅生活期のそれぞれの時期における脳血管障害患者の病態の特徴を踏まえ,医療保険・介護保険制度の中で作業療法に何が求められているのかを解説している.
「PARTⅡ 評価技術」では,情報収集や観察のポイント,患者一人ひとりの生活をみるADL評価や意味のある作業を見いだすための評価,再発や転倒のリスク管理,目標設定のあり方について解説している.
「PARTⅢ 治療技術」では,上肢機能・体幹下肢機能と作業療法,高次脳機能障害と生活,こころのケア,「できるADL,IADL」をいかに「しているADL,IADL」にするか,365日リハビリテーション実施体制と作業療法,多職種間連携と目標設定,退院先への情報提供と,回復期では欠かせない内容となっている.
さらに,各章ごとに「ミニレクチャー」という形で,一つのテーマに沿った解説があり,理解しやすい.また,随所に「MEMO」,「POINT」,「アドバイス」という囲みで,知識を広げ,間違いやすいところやしっかり理解しておきたいポイントについて違う角度から説明し,臨床実践のコツ等が解説されている.
「新人作業療法士のみなさんへ」という囲みでは臨床に臨む心構えを伝え,「読んでステップアップ!」で自己学習のための参考書を挙げてくれている.「箸休め」では,OTがふとしたときに遭遇する思いについて触れられ,ほっとする.
若いOTたちへの先輩OTからのエールが感じられる1冊であるとともに,経験者も日常の臨床を見つめ直す機会となる1冊である.
(三輪書店:作業療法ジャーナル. 49(9):954,2015より)