正常な筋緊張とは?異常な筋緊張とは?そもそも筋緊張とは?そして筋緊張をどのように捉え,どのように評価し,どのように治療へ結びつければ良いのか?
臨床思考を踏まえる理学療法プラクティス
筋緊張に挑む
筋緊張を深く理解し,治療技術をアップする!
内容
序文
主要目次
☆図版94点,表組70点,カラー写真42点,モノクロ写真46点
「筋緊張を深く理解し,治療技術をアップする!」
筋緊張(muscle tone)とは,筋が持続的に収縮している状態のことで,主に他動的に動かしたときの抵抗感のことをいう.この抵抗感は①筋組織自体の粘弾性によるものや,②その筋組織を支配している末梢神経系によるもの,さらには③中枢神経系による姿勢制御などによるものが総合された結果として生み出されている.そのため,臨床では安静時,運動時,姿勢時に分けて筋緊張を評価するのが一般的であり,その対象は運動器疾患,中枢性疾患,呼吸器疾患などすべての疾患が対象となる.つまり,治療をしていくうえで「筋緊張」に関わらない理学療法士は皆無といえるであろう.
しかし,それだけ重要な「筋緊張」であるが,臨床の中では,さまざまな言葉で使われることが少なくない.例えば,筋緊張が亢進した場合,筋の過緊張,痙縮,固縮といった表現がされるであろう.これはすべて異常レベルの筋緊張である.しかし,正常ベースの範囲内において筋緊張が高い場合(高筋緊張)もある.この場合は異常筋緊張とはいえない.逆に筋緊張が低下した場合,筋の弛緩といった表現がされるであろう.これは異常レベルの筋緊張である.しかし,正常ベースの範囲内において筋緊張が低い場合(低筋緊張)もある.この場合は異常筋緊張とはいえない.このように考えると,正常な筋緊張とは何なのか? 異常な筋緊張とは何なのか? そもそも筋緊張とは一体何なのか? そして,われわれ理学療法士はこの「筋緊張」をどのように捉え,どのように「評価」し,そしてどのように「治療」ヘ結びつけていけばよいのか? と悩んでいる若手理学療法士も少なくないであろう.
そんな疑問に答えるべく今回のMOOKでは「筋緊張」に挑む!ことにした.まずは,PARTIでは,生理学視点からみた骨格筋の神経機構(運動神経・感覚受容器)や筋緊張発生のメカニズム,さらには運動制御機構からみた筋緊張について基本をおさえることにした.そして,PARTIIでは,臨床場面において理学療法士が行う筋緊張の一般的評価・検査手技,さらに,日常生活動作で遭遇する基本動作,歩行動作,セルフケア,頭部・体幹・および顎・口腔の筋緊張の評価方法について,定性的評価(観察など)に加え,定量化・数値化への試みを実践することでわかりやすくまとめてみた.そして,最後にPART Ⅲでは,疾患別に脳卒中,脊髄損傷,痙直型脳性麻痺,二分脊椎,低酸素脳症,パーキンソン病,筋緊張性ジストロフィー,呼吸器疾患,運動器疾患,
慢性疼痛症候群に対して臨床実践の視点から筋緊張の特性と治療について深く切り込んで臨床展開までまとめた.さらに,ミニレクチャーでは,筋緊張に関連するキーワードを多数集め,これらキーワードとの関連性について紹介した.
臨床現場において筋緊張と日々,対峙している多くの理学療法士諸氏にとって,このMOOKとの出会いを機に,今以上に「筋緊張」の理解を深め,そして,明日の治療技術のアップにつなげていただければ幸甚である.
平成27年5月
常任編集者 斉藤秀之・加藤 浩
1 理学療法における筋緊張の再考
筋緊張に対する考え方
理学療法における筋緊張の捉え方
2 運動・生理学からみた筋緊張
はじめに
神経性要素による筋緊張異常
機械的要素による筋緊張異常
PartII 筋緊張の測定・評価
1 一般的評価や検査手技について
筋緊張の状態を表す用語は?
筋緊張はどのように制御されているか?
障害部位の違いによる筋緊張異常の特徴は何か?
具体的にどう評価するか?
ミニレクチャー 深部腱反射は筋緊張の評価ではない
2 動作レベルでの筋緊張評価の診かた
姿勢・動作レベルでの筋緊張の捉え方
姿勢・動作の筋緊張評価で必要な基礎知識
姿勢評価〜臥位〜
姿勢評価〜座位・立位〜
動作評価〜起き上がり動作,立ち上がり動作〜
ミニレクチャー 姿勢と筋緊張
3 歩行分析における筋緊張の診かた
筋緊張異常は3つの要素で捉える
筋緊張異常による歩行障害
歩行観察による筋緊張異常の捉え方
脳卒中片麻痺患者の歩行
DMDによる異常歩行
動作時筋緊張の定量的な測定方法
安静時筋緊張と動作時筋緊張の関連性について
歩行時内反尖足に安静時と動作時筋緊張のどちらが影響しているか?
4 セルフケアにおける筋緊張の診かた
第一印象を大事にする
筋緊張を診る前にやらなければならないことがある
分析〜関節か筋か,の原因を見分けるには?〜
二次的な姿勢の崩れ
重力との関係を考慮すると,見かたが変わる!
評価表
具体的事例
5 頸部・体幹および顎・口腔の筋緊張の診かた
頸部・体幹の筋緊張は常に重力に対抗している
筋緊張を姿勢アライメントと関節モーメントから考える
筋緊張に影響を与えるものは?
頸部・体幹アライメントが顎・口腔の筋緊張に影響している
筆者が行っている臨床での筋緊張評価の紹介
ミニレクチャー 頸部・口腔周囲の筋緊張評価
6 筋緊張に影響する要因
筋緊張をコントロールしているのはどこ?
固有感覚制御とは?
注意・覚醒・意識が及ぼす影響
フィードフォワード,フィードバックについて
支持面の状況
表現型とは?
既往症とは?
感情・情緒
PartIII疾患別の筋緊張の特性と治療
1 脳卒中における筋緊張の特性と治療
筋緊張の問題が与える影響は?
どのようにして筋緊張に挑むか?
筋緊張に対する理学療法
実際の運動療法
筋緊張に対するチームアプローチ
ミニレクチャー 筋緊張が功を奏する場合もある
ミニレクチャー 除脳硬直とは?
ミニレクチャー 低緊張とは?
2 脊髄損傷における筋緊張の特性と治療
完全損傷と不全損傷
予後を推測するには?
損傷高位の目安は骨傷から推測する
完全麻痺と不全麻痺の鑑別
麻痺と筋緊張の所見
脊髄損傷の痙縮の病態
筋緊張の評価
脊髄損傷の痙縮について
治療は何を目指すのか
歩行再建の可能性を探る
痙縮筋に対するアプローチ
3 痙直型脳性麻痺における筋緊張の特性と治療
痙縮? そして痙直型CPとは?
痙直型CPの筋緊張は変化する!
痙直型CPの痙縮に対する治療法は変わってきている
CPに対する評価法はどんどん増えてきている
痙直型CPに対する治療アプローチはハイブリッド?
CPに対する痙縮治療は完全に治せる時代がくる?
4 二分脊椎における筋緊張の特性と治療
全体像評価に筋緊張治療へのヒントがある!
評価を上手に行うには?
治療の前に
評価の手順
5 低酸素脳症における筋緊張の特性と治療
(脳損傷・意識障害含む)
低酸素脳症とは?
低酸素または虚血が神経・血管に及ぼす影響は?
患者を受け持った際に
治療の前に
意識障害の評価
理学療法の進め方〜早期からの離床の必要性〜
6 パーキンソン病における筋緊張の特性と治療
筋強剛と動作能力は直結しない
PDの異常筋緊張は筋強剛のみではない
寡動・無動・動作緩慢は筋強剛を伴わなくても起こりうる
すくみ足と筋強剛は無関係
日常生活において
ミニレクチャー 固縮と筋短縮
7 筋強直性ジストロフィーにおける筋緊張の特性と治療
疾患の概要
多彩な臨床症状
理学療法の実際
8 呼吸器疾患における筋緊張の特性と評価・治療
呼吸筋・胸郭の解剖
COPDにおける呼吸筋の病態
症例
呼吸筋の評価項目
筋緊張に対するアプローチ
COPDにおけるセルフケアのポイント
9 運動器疾患における筋緊張の特性と治療
運動器疾患における筋緊張の異常とは?
筋緊張が亢進する理由は⁉
運動器疾患において筋緊張が亢進する原因は?
筋緊張は連鎖する
上肢疾患における筋緊張の特性および治療
上肢疾患の筋緊張の異常に挑む‼
〜肩腱板断裂術後の筋緊張の特性とアプローチについて〜
下肢疾患における筋緊張の特性および治療
下肢疾患における筋緊張の特性は? 下肢疾患の筋緊張の異常に挑む‼
〜変形性膝関節症の筋緊張の特性とアプローチについて〜
ミニレクチャー 筋スパズムとは?
ミニレクチャー 筋硬結とは?
慢性疼痛症候群における筋緊張の特性と治療
慢性疼痛症候群は安静時筋緊張が亢進している!
安静時筋緊張亢進
筋収縮にはブラックボックスが存在する
新たなる筋機能評価への取り組み
健常群と慢性疼痛症候群の筋電図,筋音図,筋力
運動療法の実践とMMGの変化〜慢性腰痛症〜
ミニレクチャー 痛みと筋緊張
ミニレクチャー 筋緊張性頭痛とは?
ミニレクチャー 疲労と筋緊張
ミニレクチャー 寒冷・温熱療法
ミニレクチャー 電気刺激療法
ミニレクチャー 光線療法
ミニレクチャー 超音波療法
ミニレクチャー 牽引療法
索引