リハビリテーション医学・医療に関係するすべての人へ
リハビリテーション医学・医療用語集第8版
内容
序文
わが国におけるリハビリテーション医学・医療の原点は20世紀前半の急性灰白髄炎(脊髄性小児麻痺:ポリオ),骨・関節結核,脳性麻痺などの肢体不自由児に対する療育にあるとされている.1940年代の世界大戦では戦傷により,大戦後には労働災害や交通事故により対象となる患者が増加した.その際には四肢の切断・骨折,脊髄損傷のリハビリテーション医学・医療が大きな課題となった.そして,超高齢社会となった現在,リハビリテーション医学・医療の対象として,小児疾患や切断・骨折・脊髄損傷に加え,中枢神経・運動器(脊椎・脊髄を含む)・循環器・呼吸器・腎臓・内分泌代謝・神経筋疾患,リウマチ性疾患,摂食嚥下障害,がん,スポーツ外傷・障害などの疾患や障害が積み重なった.さらに,周術期の身体機能障害の予防・回復,フレイル,サルコペニア,ロコモティブシンドロームなどの病態も加わり,ほぼ全診療科に関係する疾患,障害,病態を扱う領域になっている.しかも,疾患,障害,病態は重複的複合的に絡み合い,その発症や増悪に加齢が関与している場合も少なくない.
このような背景の下,日本リハビリテーション医学会では2017年に,リハビリテーション医学について新しい定義づけを行った.すなわち,疾病・外傷で低下した身体・精神機能を回復させ,障害を克服するという従来の解釈のうえに立って,ヒトの営みの基本である「活動」に着目し,その賦活化を図る過程がリハビリテーション医学であるとしている.日常での「活動」としてあげられる,起き上がる,座る,立つ,歩く,手を使う,見る,聞く,話す,考える,衣服を着る,食事をする,排泄する,寝る,などが組み合わさって有機的に行われることにより,家庭での「活動」,学校・職場・スポーツなどにおける社会での「活動」につながっていく.
リハビリテーション医学・医療を専門とするのはリハビリテーション科医である.そして,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,義肢装具士,歯科医,看護師,薬剤師,管理栄養士,公認心理師/臨床心理士,社会福祉士/医療ソーシャルワーカー,介護支援専門員/ケアマネジャー,介護福祉士などの専門職とともにリハビリテーション医療チームを形作っている.また,近年,急性期,回復期,生活期においてそれぞれのphaseに合ったリハビリテーション医学・医療の充実が求められている.さらに,国の施策として構築が急がれている地域包括ケアシステムでも重要な役割が期待されているのもリハビリテーション医学・医療である.
全国の大学・医科大学の医学部のなかで,リハビリテーション医学の講座があるのは半数に満たない状況であり,医学生のうちの半数以上はリハビリテーション医学の基本的な教育を受けないまま卒業する.卒後臨床研修においても,リハビリテーション科は必修ではない.急性期,回復期,生活期のリハビリテーション医療施設はそれぞれ独立していることが多く,一貫した教育体制が取りにくくなっている.リハビリテーション医学に基づく質の担保されたリハビリテーション医療を行っていくためには,リハビリテーション医学の教育体制整備が喫緊の課題になっており,日本リハビリテーション医学会の役割は従来にも増して大きくなっている.この状況において日本リハビリテーション医学会監修のもと2018年4月に『リハビリテーション医学・医療コアテキスト』(医学書院)が,2019年1月に『リハビリテーション医学・医療Q&A』(医学書院)が発刊されている.
これらのテキストの基本となる用語に関してはweb上で改訂されてきているものの,書籍としては2007年以来手付かずであった.用語は学問における専門領域の共通言語であり,国際的に情報発信する場合においても極めて重要である.また用語全体を俯瞰することも必要である.そこで今回は内容を改めて吟味し,新たに用語集を発刊することとした.『リハビリテーション医学・医療コアテキスト』で新たに使用された用語も採用されている.さらに日本語と英語の両者が見やすいように紙面が工夫されている.
第7版から2,929語増え,日本語:8,358語,英語:8,275語,略語:280の計:16,913語が収載されており,日本リハビリテーション医学会の会員のみならずリハビリテーション医療や介護におけるリハビリテーションマネジメントに関わるすべての方々に利用していただきたい用語集である.
膨大な数の用語を短期間で整理していただいた担当の先生方とお世話になった文光堂の関係者に心から感謝を申し上げる.
2019年6月
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
理事長 久保 俊一
第8版序
今回の用語集刊行は,2007年の第7版刊行後12年ぶりとなる.
2010年には,第7版を基にWeb版リハビリテーション医学用語辞典(以下Web版)の運用が開始され,学会ホームページ内の会員向けコンテンツとして皆様にご活用いただいた.この間,新しい疾患概念の登場,診断・治療の進歩,新たな法制整備などによって新用語が多数登場しています.また,国内外における病名改変(置き換え)の動きなどもあり,評価・用語委員会では,日本医学会や関連学会における動向を踏まえつつ,定期的にWeb版への用語追加や修正を行ってきた.さらに,2018年には学会公式テキストブックとして「リハビリテーション医学・医療コアテキスト(以下コアテキスト)」が刊行された.
今回,第8版の用語集改訂にあたっては,リハビリテーション医学会理事会及び特別用語委員会で用語を拾いあげ評価・用語委員会でDelphi法に基づく用語の取捨選択を行いました.用語の選定や表記は,日本医学会医学用語辞典WEB版や関連学会の用語集との対比を行い,検索エンジンや学術誌における用語使用動向も参考にしながら,最終的に和語8,358語,欧語8,275語を収載いたしました.改訂作業においては,お忙しい中ご協力をいただきました特別委員を含む委員の皆様に,この場を借りて深謝申し上げる.
第8版では,欧和,和欧の対応を重視するとともに,多くの方々に用語に親しんでいただけるように,ひらがな表記(読みがな)を加えました.
本用語集が日本リハビリテーション医学会会員だけではなく,広くリハビリテーション医学・医療に関連した方々に臨床・研究・教育の場で活用していただけることを願っている.
2019年6月
評価・用語委員会 委員長 髙倉 朋和
担当理事 佐伯 覚,中村 健
担当事務局幹事 緒方 直史