健康増進のため,ピラティスをどのように提供するべきか.その実践を分かりやすく解説!
健康増進のためのピラティス
成果を導く実践的プログラミング
内容
序文
主要目次
本書は一般成人の健康増進を目的としたピラティスの指導法について,指導者に向けた知見を提供する目的で書籍化したものです.テーマは昨今の生活・社会環境変化が著しい中にあり,指導者が運動者の健康増進のために,ピラティスをどのように提供するかにあります.身体の各部位ごとに機能性の向上に着目した実技編,運動の身体効果や指導法に関する研究論文の情報を主体とした理論編から構成しています.指導者の方々がひと目みて本書の提供する情報をキャッチできるように,各章の内容を4コマ漫画,ポイント,まとめで要約させていただきました.
実技編のコーディネーターの労を担っていただいた五十嵐祐子先生は,2000年にピラティスを学ぶため,ニューヨークに渡米されました.その頃の日本では,「ピラティス」は限られた一部の人にしか認知されていませんでした.その後,2000年初頭頃から運動施設のプログラムに取り入れられはじめ,米国で指導法を学ばれた指導者の方々が日本に帰国して指導を開始され,また多くの米国ピラティススクールの日本支部が設立されました.これらの実績として,指導者の育成がなされました.指導者が増えたことにより,日本におけるピラティスの普及が進みました.今日ピラティスは,日本人の幅広い層に認知されるに至っているといえるでしょう.
ジョセフ・H・ピラティス氏がピラティスを指導していた時代から,およそ100年以上の年月が経過しました.この間に私たちを取り巻く生活・社会環境変化は,身体活動量を大幅に低下させてきました.加えて2020年に発生したCOVID-19による世界的パンデミックは,ピラティス実践にも大きな変化をもたらせました.運動者が自宅でオンラインによるピラティス指導を受けることなども,一般的となってきました.これら数々の変化を目の当たりにしてきた指導者の多くが,どのようにすればピラティスが人々の健康増進に貢献できるか,その方法を模索しているように見受けられます.
実技編を執筆してくれたスティーブン・ウイリアムス氏は,クラシカルピラティスを学び,ジュリアード音楽院で教職の鞭をとる解剖学の大家であるアイリーン・ダウド先生の助手をも務めています.この経歴をみても,いかに彼が優秀なピラティス指導者であるかは明白です.スティーブンはこのパンデミック発生直後から,家にいてもピラティスマシンを用いるのと同様の運動を提供するということに,いち早く取り組んできました.彼はパンデミックが発生した当初の2020年から,クライアントに運動を継続させて健康を維持するというコンセプトのもと,米国人指導者や日本人指導者を対象としたピラティスクラスを毎週行っています.このクラスの内容は,大変素晴らしいものです.現代社会において健康づくりとしてピラティスをどう提供するかについて新たなインスピーションを与えてくれるという点で特化したものがあります.スティーブンがそのクラスを開始した当時,運動を継続させるピラティス指導に関する私の原著論文が学会誌に採用されたこともあり,スティーブンの素晴らしいアイデアを含めて,日本の指導者の方々に向けて,形あるものとして残せないかという想いを抱いたことが,本書のスタートでした.米国と日本という距離,時差の隔たり(特にニューヨークとは昼夜が真逆です)は,編集作業がそれ相応に大変なものとなりました.しかし,本書に記載されているスティーブンの考える新たなピラティス指導の視点は,指導者の方々に新たな健康運動としてのピラティスの可能性を提供できるものと確信しています.
ピラティスが健康づくり運動として機能し得るかについては,現段階では本書の第11章で先行研究レビューを執筆いただいた早川洋子先生が述べておられます.「まだわからないことも多いものの,様々な恩恵が期待できる」との現状にあります.指導者の皆様におかれては運動者にピラティス指導を継続的に行い,健康上の様々な恩恵を提供すべく多様な視点での情報収集が望まれます.そのため本書においてはピラティスの研究全般についての解説と共に,長年に渡り身体効果の共同研究を行っていただいた田中喜代次先生,大藏倫博先生にも執筆の労を取っていただきました.
本書が指導者によって運動者の健康づくりに貢献できる一助となれば大変嬉しく思います.
本書の制作にあたり,ご多忙の中執筆をくださいました諸先生方,本書の「指導者にわかりやすい情報提供を行う」というコンセプトを汲み取った4コマ漫画を製作くださった津野敦子様,編集の労を担っていただきました(株)文光堂中村晴彦氏に深く感謝申し上げます.
2023年4月
高田香代子
第1章 足裏の刺激
[感覚の喪失への改善に向ける]
第2章 肩の理解
[肩関節を安定させる方法の理解]
第3章 頭・首・上背部の鍛え方
[現代生活とコンピュータが引き起こす問題への対応]
第4章 骨盤はどこにある?
[健康な骨盤,脊柱とは?]
第5章 膝の筋力トレーニング
[大きな圧力がかかる最大の関節]
第6章 臀筋を鍛える
[より快適に立ったり歩いたりするために]
第7章 握力の鍛え方
[手の曲げすぎ(つかみすぎ)の問題と伸筋の強化]
【理 論 編】
第8章 対談:実技と理論のコネクション
[新しいピラティスの潮流]
第9章 運動者を継続させる相互作用と指導への応用
第10章 健康づくり総論:女性の健幸華齢,男性の元気長寿のためのピラティス
第11章 ピラティスの身体効果
第12章 ピラティス研究報告
1 ピラティス実践による生理学的側面,脳血流量に対する一過性効果
2 短時間のピラティス実践が気分に与える一過性効果
3 短期間のピラティス実践が中高年女性の身体組成および身体機能に与える影響
4 中高年女性への認知機能への効果
索 引