内科?皮膚科?どっちも!ケースを解きながら学ぶ成人アレルギー診療の極意!!
内科×皮膚科 解いて学ぶ!
「おとな」のアレルギー
魂のクロストーク37のCase Study
内容
序文
主要目次
私は世界史が好きである(姉妹書でも述べた).今回は三國志である.小学校3年生で横山光輝『三國志』(以下,横山三國志)から入り,吉川英治の小説,本宮ひろ志『天地を喰らう』,コーエーテクモホールディングスのシミュレーションゲーム『三國志シリーズ』と40年近く,私の人生の糧となっている.そのハイライトともいえるのが赤壁の戦い(西暦208年)だ.それをモチーフにした『レッドクリフ』(ジョン・ウー監督,2008年公開)で描かれた戦闘シーンを想起される方も多いのではないだろうか.当時の中国の北半分を獲得し,肥沃な荊州の地を狙って南進してきた曹操を孫権と劉備の連合軍が長江を挟んで迎え撃つ一大血戦である.羅漢中の小説・三國志演義(以下,演義)や横山三國志では諸葛亮の“天才”軍師ぶりを見せつける格好の舞台であるが,実際に活躍したのは呉国の周瑜や魯粛,黄蓋であり,本来彼らを主役に据えるべきパートである,と私は考える.なぜなら劉備はまだ一介の地方太守であり,すでに江南に盤石の領土を有した孫呉と対等とはいえない存在であった.劉備は赤壁の戦いを経て,諸葛亮の勧めもあり四川地方に入り蜀漢を建国し,いわゆる三国鼎立が完成する.アレルギーはその罹患者数の多さや患者のニーズから花形のように見えて,実は内科医のサブスペシャリティとして比較的マイナーな領域である.胸を張って全臓器オールマイティなアレルギー内科専門医といえる医師は全国にどれだけいるのであろうか?だからこそ,強力なパートナーが必要である.それはつまり,皮膚科や耳鼻咽喉科,眼科,消化器内科,救急,小児科との連携のことであり,諸科の視点でアレルギー疾患を診るスキルや知識を学ぶことである.強大な攻撃力で攻め寄せてくるアレルギーをまさに“連環の計”ではねのける必要がある.
三國志といえば,私が最近ハマっているのが演義と正史との違いを調べる情報収集である.私達の脳内に蓄積されてきた知識やイメージは,たいていが蜀漢びいきで主に劉備配下の武将が活躍する英雄譚としての三國志であり,この齢まで何か歴史の本質をずっと見逃してきたような気がしてならなかった.とくに落ち着かなかったのが蜀漢の客将ともいえる馬超の存在であった.演義では劉備を支える重鎮,美麗な勇将“錦馬超”として描かれるが,蜀漢に入る前も入った後も意外と目覚ましい活躍がみられない.妻子を故郷に残して劉備に帰順したのが西暦214年,病死したのがその8年後.同221年の蜀漢の建国までに至る劉備への貢献度を考えれば,全財産を投げうった糜竺や,中途採用にもかかわらず多数の戦役で活躍した魏延に到底敵わないはずである.魏の曹操の本陣深くまで攻め入ったとされる潼関の戦いにおける猛将・許褚との一騎打ちや,関羽や張飛と並び称される蜀漢の五虎大将入りも後世の創作とされている.それどころか,正史では,まだ辺境の地・涼州で領土争いをしていたときにライバル韓遂の部下・閻行との対決では殴死の一歩寸前まで打ちのめされ,その後,時の実力者・曹操に歯向かったことで実父と一族を皆殺しにされてしまった悲劇の人なのである.また,馬超の人生の絶頂期ともいえる潼関の戦いの後,転落のきっかけとなる冀城・祁山の戦いで彼を追い詰めたのは,三國志に登場するわずかな女性武将の一人,王異であった.戦乱から娘を逃すため自ら毒をあおり,馬超に人質にされた息子の命と引き換えに緻密な心理戦を行った,なかなか蛮勇な女将である.しかしながら,演義では王異に関してろくな記載がみられず単に王氏と簡潔に記されるのみ.前述の閻行に至っては,魏に下り曹操の歓待を受け出世を遂げた史実が残るが,演義には馬超とのエピソードを含め一切登場してこない(ちなみにコーエーテクモホールディングスのゲーム最新作である「三國志14」には両者とも収載され,相応の能力値が付されている!).一見,華やかそうに見える武将の陰に,重要な歴史を彩った有能な人物が多数埋もれてしまっていることを私たちはあまり知らない.
さて,アレルギー疾患対策基本法に定められた6つの主要なアレルギー疾患は,喘息,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,花粉症,アレルギー性結膜炎,食物アレルギーである.これらはいわば,蜀漢における五虎大将(関羽,張飛,馬超,黄忠,趙雲)と丞相・諸葛亮であり,三國志に触れたことがある人なら上記の人物の特徴をだいたい知っていることだろう.それと同様,医療従事者であれば6大アレルギー疾患の概要をおおむね説明できるはずである.しかし,そのようなメジャーな疾患でもイメージ先行で誤解されてしまうことや,非典型例の存在が忘れられていること,症状・徴候の点で似て非なる病態の鑑別は決して容易ではないこと,などは臨床アレルギー学のピットフォールであると私は考えている.医学は知らなければ疑うことも推察もできない.鑑別できなければ正確な診断はできない.毎日をアレルギー診療に尽くしていないと,鑑別にすらあがらないまれなアレルギー疾患やアレルギー関連疾患を学ぶ機会は卒前の限られた時間数の学部教育では乏しく,まとめて学ぶ媒体や参考書がほとんどないのが現状である.そのような病態は先に述べた三國志演義で省かれてしまったマイナー武将さながらである.彼ら・彼女らだって歴史を変えているわけなので,そのような病態も是非とも日の目を浴びてもらいたい.また,アレルギー内科の立場から連携・連帯を強化していくべき診療科の知識を修得する機会や,日々の診療で見逃してしまっているアレルギー関連疾患・病態を知る機会を,臨床アレルギー学を志す読者の皆さんに何とかして提供したい,そんな熱い気持ちがシリーズ続編を織り成す原動力となった.そして今回皮膚科という強力なタッグパートナーを得た.アレルギー内科と皮膚科の魂がクロスし,力と技の風車が回り,遂にデラックス版かつ唯一無二の臨床アレルギー学テキストが完成した(……なんのこっちゃ?).
最後に皆さんへ一言「このなかにアレルギーを極められるものがあるか?」
~「ここにいるぞ!」と馬岱の声が聴こえたような気がした.
令和5年秋
昭和大学医学部内科学講座呼吸器・アレルギー内科学部門
鈴木慎太郎
CASE 1 怪奇!グリーンハウスアレルギー
CASE 2 うどん屋のアナフィラキシー Take1─一歩踏み込んだ小麦アレルギーの考え方~小児と成人の違い~
CASE 3 実験中に苦しくなるのは動物の祟り?アレルギー?
CASE 4 恐怖!fromペット飼育bound for食物アレルギー
CASE 5 アレルゲンのダークホースは文字通りウマだった?
CASE 6 うどん屋のアナフィラキシー Take2─うどん屋に潜む脅威~ゆで釜に注意~
CASE 7 性交後に生じた蕁麻疹,呼吸困難,嘔吐
CASE 8 外科系ほど知るべきラテックスアレルギー~麻酔中のアナフィラキシーの原因第2位~
CASE 9 風邪をひくと,なぜいつも同じところに皮疹が出るの?
CASE 10 「私は局所麻酔薬は使えないんです」「きちんと診断されていますか!」
CASE 11 うどん屋のアナフィラキシー Take3─うどん屋に潜む刺客~背後からそろり~
CASE 12 山に行った2日後から皮疹が出た!何が原因!?
CASE 13 検査が終わった2日後から背中が赤くなってきました!?
CASE 14 お化粧してマスクをしてお洒落を楽しんでいたら両頰に皮疹が…
CASE 15 酸っぱいものを食べると,手に水ぶくれが出ます!?
CASE 16 ヘアーサロンで勤務していると眼や喉に違和感が出現
CASE 17 夜間に繰り返すアナフィラキシー様の症状の原因とは!?
CASE 18 アナフィラキシーショック!?四肢に褐色斑,褐色結節がみられるのはなぜ!?
CASE 19 なぜか急に卵が食べられなくなってしまった……??
CASE 20 「いま診療所だけど…救急車,早く来て!」
CASE 21 「入院中は食事も安心♪いただきま〜す」(数分後)「おっ,おぇーっゲロゲロゲロ」
CASE 22 退院時指導の重要性~「いつ打つの?今でしょ!」そんな指導は平成で終わらせよう~
Part 2 気道・肺のアレルギーとその周辺疾患
CASE 23 ゴマ油でうがいをしたら呼吸困難,咳が…
CASE 24 楽しい女子会が苦しい思い出に…
CASE 25 可愛いアクセサリーを作りはじめたら,苦しくて,苦しくて…
CASE 26 カキ(牡蠣)打ちをしていると咳が出てきた患者
CASE 27 お風呂がキレイになったけれど…ヒューヒュー,ゼーゼー
CASE 28 “ワノ国”は世界1位の窒息大国!知らないと怖い緊急疾患
CASE 29 ちゃんとコロナワクチンを打ってたのに…
CASE 30 人前で咳をするのが恐い,発声が困難
Part 3 ニューカマー&リバイバル
CASE 31 抗菌薬の効かない腹膜炎~原因は何?~
CASE 32 蕁麻疹の治療をしたら,小麦が食べられるようになっちゃった!
CASE 33 歯科治療中に唇が腫れて腹痛が出現
CASE 34 米国に転勤してから下痢が続き,体重が減少
CASE 35 驚愕…ホルマリンを使った医療行為がある!
CASE 36 高価だから効果を期待していたのに…まさかアレルギーが起きるなんて…
CASE 37 「何やってんの!朝っぱらから」「え~そんな~シクシク…聞いてないよー」
巻末資料
資料1 皮膚アレルギー疾患に関する紛らわしい表記
資料2 蕁麻疹と血管性浮腫の鑑別フローチャート
索 引