神経病理診断に役立つ標準的かつ最新の情報と写真が満載.神経病理の決定版アトラス!
非腫瘍性疾患病理アトラス
中枢神経
内容
序文
主要目次
中枢神経病理学に関する単著書籍は本邦においても多数上梓されているが,その時代のエキスパートの総力を結集したカラー版分担書籍は,過去数十年を俯瞰しても,本書以外にないと確信している.筆者が主宰した第58回日本神経病理学会(2017年)のスローガンは「ALL JAPANで神経病理!」であったが,それから約7年が経過し,より一層パワーアップして活躍中の諸先生の筆による本書は,非腫瘍性の中枢神経病理を網羅した最高のALL JAPAN TEXTBOOKであると言っても過言ではない.しかも,現在進行形の多くの今日的課題にも触れられているため,今後の展開にキャッチアップする必携の書となるはずである.
疾病の多くは古から存在しているが,病因に関与する新しい病理変化が明らかになるにつれ,疾病カテゴリーの考え方や分類が新しくなったり,最新治療によって修飾が加わり定型的な病理像を変化させたり,環境変化などが疾病の消長に影響を与えたりする.一方,COVID-19における脳脊髄の感染性・炎症性病変のように新しく遭遇する病態もある.また,頭部外傷病変の発生機序やてんかん原性に関する研究なども喫緊の課題として取り組まなければならない.
神経変性疾患でもダイナミックな変化が生じている.一部では,リン酸化されて不溶化する蛋白の構造異常が明らかとなり,診断学的な鍵となる細胞病変を可視化する染色技術の開発により,以前は検出できなかった所見が次々と表舞台に登場してきている.運動ニューロン疾患の代表である筋萎縮性側索硬化症と,認知症の一群であるTDP-43型前頭側頭葉変性症が,実は類縁の疾患であるというようなパラダイムシフトは,今後も様々な変性疾患で起きてくると思われる.
このように,研究により得られるファクトが多くなると,おのずとそれに基づいた分類や診断基準が新しく提唱されてくる.そのこと自体は重要なことであるが,分類や基準はあくまでも便宜的なものであり,大きく変化してゆく運命にある.本書はその通過点であるが,過去から未来へ繋ぐ,しっかりとした土台になりえるはずである.
読者にとって本書が神経系疾病の診断や病態理解の一助となることを切に願うとともに,ご執筆を賜った先生,並びに,標本作製に常日頃尽力しておられる技術職員に深甚なる謝意を表する.また,文光堂の関係各位には企画,編集から製作まで多大なご協力をいただいた.特に編集企画部の森田礼子氏には,筆者と執筆者とのあいだの調整を懇切丁寧にしていただき,良書になるように導いていただいた.ここに改めて本書に関わった全ての皆様に御礼申し上げる.
2024年2月
新井信隆
第1部 総 論
Ⅰ 大脳の切り出し・肉眼所見
Ⅱ 脳幹・小脳の切り出し・肉眼所見
Ⅲ 脊髄の切り出し・肉眼所見
Ⅳ 神経染色法
〔TOPICS〕ミクログリアの見方
〔COLUMN〕ブレインバンク
Ⅴ 神経病理実務の紹介
Ⅵ パラフィンブロックの研究活用
第2部 各 論
Ⅰ.循環障害・血管病変
1 脳内出血
2 脳梗塞
3 ラクナ梗塞・分枝粥腫病
4 無酸素性脳症
5 脳動脈瘤
6 脳動静脈奇形・海綿状血管奇形
7 Cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy(CADASIL)
8 Cerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy(CARASIL)
9 脳表ヘモジデリン沈着症
10 脳アミロイドアンギオパチー
Ⅱ.頭部外傷
1 脳挫傷
2 硬膜外血腫
3 硬膜下血腫
4 外傷性くも膜下出血
5 脳底部動脈破裂による外傷性くも膜下出血
6 びまん性軸索損傷
Ⅲ.感染症
1 細菌性感染
1)細菌性髄膜炎・脳膿瘍
2)結核性髄膜脳炎
2 真菌感染症
1)アスペルギルス症
2)クリプトコッカス症
3 寄生虫・原虫感染症
1)トキソプラズマ症
2)アメーバ髄膜脳炎
3)Chagas病
4 ウイルス感染症
1)進行性多巣性白質脳症
2)麻疹脳炎(特に亜急性硬化性全脳炎)
3)HIV脳症
4)ヒトヘルペスウイルス6型脳炎
5)単純ヘルペス脳炎
6)サイトメガロウイルス感染症
7)水痘帯状疱疹ウイルス感染症
〔COLUMN〕感染症と紛らわしい非感染性疾患
〔TOPICS〕COVID-19
Ⅳ.変性疾患
1 運動ニューロン疾患
1)筋萎縮性側索硬化症
2)紀伊半島に多発する筋萎縮性側索硬化症
2 Alzheimer病
3 タウオパチー(FTLD-tau)
1)タウオパチー・FTLD-tau総論
2)進行性核上性麻痺
3)皮質基底核変性症
4)Pick病
5)嗜銀顆粒病
6)Globular glial tauopathy(GGT)
7)神経原線維変化型老年期認知症
8)慢性外傷性脳症
4 シヌクレイノパチー
1)シヌクレイノパチー総論
2)特発性Parkinson病
3)Lewy小体型認知症
4)純粋自律神経不全症
5)Lewy小体の一般臓器所見
6)多系統萎縮症
5 リピート病
1)リピート病総論
2)Huntington病
3)脊髄小脳失調症2型
4)Machado-Joseph病/遺伝性脊髄小脳失調症3型
5)脊髄小脳失調症6型
6)歯状核赤核淡蒼球Luys体萎縮症
7)脊髄小脳失調症31型
8)神経核内封入体病
6 TDP-43プロテイノパチー
1)FTLD-TDP
2)Perry病
Ⅴ.脱髄疾患・髄鞘障害性疾患
1 多発性硬化症
2 視神経脊髄炎
3 Nasu-Hakola(那須・ハコラ)病
4 神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症
5 異染性白質ジストロフィー
6 副腎白質ジストロフィー
7 グロボイド細胞白質ジストロフィー(Krabbe病
8 Marchiafava-Bignami病
9 橋中心髄鞘崩壊症
Ⅵ.脳形成異常
1 頭蓋・脊椎,脳・脊髄の形成
2 神経管閉鎖障害
1)二分脊椎と髄膜瘤・髄膜脊髄瘤
2)無脳症
3)脳瘤
3 Chiari異常群
4 脳胞形成障害
1)全前脳胞症
5 移動障害
1)滑脳症
2)福山型先天性筋ジストロフィー
3)多小脳回
4)ヘテロトピア
Ⅶ.神経皮膚症候群
1 結節性硬化症
2 Sturge-Weber症候群
3 毛細血管拡張性運動失調症
4 Cockayne症候群
5 色素性乾皮症
Ⅷ.てんかん
1 海馬硬化症
2 限局性皮質異形成
Ⅸ.プリオン病
1 プリオン病総論
2 特発性プリオン病
3 獲得性プリオン病
4 遺伝性プリオン病
Ⅹ.中毒・代謝異常など
1 放射線脳症
2 Wernicke脳症
3 一酸化炭素中毒
4 Menkes病
5 Leigh脳症
6 メラス
7 マーフ
索 引