新潮流を捉えた循環器診療の羅針盤!
臨床循環器学
内容
序文
主要目次
総合的かつ体系的に循環器学を学ぶことができる“教科書”と呼ぶべきテキストの久々の刊行である.本テキストの前身にあたる『実践臨床心臓病学』(吉川純一・松﨑益德 編)が出版されたのは1997年である.「教育の現場で学生や研修医に“これを読んでおきなさい”と手軽に渡せる本を出版したい.」という編者の思いが詰まった渾身のテキストであった.10年後の2006年,『臨床心臓病学』(松﨑益德・吉川純一 編)と名前も新たに出版された.その出版には循環器診療が進歩したこと以外にもう一つ動機があった.それは卒後臨床研修制度への危機感である.「“渡り鳥”のような研修生活を強いられている研修医や“自動車教習所の教官”のような,ほとんど真の意味での師弟関係のない状況での研修医指導を強いられている指導医師を見ていると,現状のこの状態が正常な卒後医学教育とは考え難い.」循環器学を志す者はこれを読んでおきなさいというテキストを作らねばならないという強い思いが込められたものであった.
それから15年,循環器学は大きく変貌した.新たな病態が解明され,疾患概念,診断,薬物治療,治療手技は異次元の進歩を遂げた.さらにevidence-based medicineに基づくガイドラインにより,診療の均霑化がもたらされた.負の側面もある.循環器学が扱う領域が広がったため,全体像が見えなくなってきていること,そして教える側の専門分化も進み,疾患の関連性など総合的な教育が難しくなっていること,などである.その結果,“なぜ”という疑問を持たずに,その治療が目の前の患者に最適なのか考えることなく黙々とガイドラインに従った診療をしている医師が増えているように思えてならない.循環器診療は進歩したものの臨床の地頭を鍛える環境が失われていると言わざるを得ない.
そこで,“これ一冊を読んでおきなさい”というものを新たに作ろうとチャンレンジしたものが本テキストである.循環器疾患の病態に関する最新の知識,診断・治療法だけではなく,糖尿病や慢性腎臓病など他臓器疾患に合併する循環器疾患,新たな領域としての成人先天性心疾患,腫瘍循環器学まで幅広く網羅した.さらに,手技のノウハウから臨床試験やエビデンスの評価法まで,これ一冊で循環器学の全てがわかるものになっている.
本書を読むことで循環器学がさらに面白くなった,理解が深まったと思っていただくことができれば,執筆者一同の大きな喜びである.
2021年3月吉日
伊藤 浩
坂田泰史
A 変わる疾病構造と迫られる対応
B 根拠ある診療とは
C 個別化医療・先制医療
D 医療の質のたゆまぬ向上を目指して
E チーム医療:心不全
F 臓器連関
G 腸内細菌叢と循環器疾患
H 求められる医療倫理
I 地域連携の実際
J 緩和医療
第2章 心不全
A 心不全の疫学と病型
B 心不全の病態生理
C 心不全の分子生物学的機序
D 心不全の診断
E 急性心不全
F HFrEFの診療
G HFpEFの診療
H 非薬物治療:内科的治療
I 非薬物治療:外科手術
J 重症心不全(ステージD)
第3章 不整脈・心臓突然死
A 不整脈の機序
B 不整脈の診断とリスク層別化
C 上室性不整脈
D 心房細動
E 心室期外収縮・心室頻拍
F 遺伝性不整脈
G 徐脈性不整脈
H デバイスの調整と管理,合併症
I 失神と心臓突然死
第4章 動脈硬化性・炎症性疾患
A 動脈硬化の機序
B 脂質代謝の正常と異常
C 動脈硬化のスクリーニング
D 安定冠動脈疾患
E ST上昇型心筋梗塞
F 非ST上昇型急性冠症候群
G 冠動脈インターベンション(PCI)
H 大動脈瘤
I 大動脈解離
J 高安動脈炎
第5章 末梢血管疾患
A 末梢動脈硬化症
B その他の血管疾患
C 脳卒中
D 静脈血栓塞栓症
第6章 心臓弁膜症
A 心臓弁膜症の疫学
B 心臓弁膜症の診断
C 僧帽弁閉鎖不全症
D 僧帽弁狭窄症
E 大動脈弁閉鎖不全症
F 大動脈弁狭窄症
G 三尖弁疾患・肺動脈弁疾患
H 人工弁
I 感染性心内膜炎
第7章 心筋疾患・心膜疾患
A 拡張型心筋症
B 肥大型心筋症
C 不整脈原性右室心筋症
D 拘束型心筋症
E 周産期心筋症
F 心臓サルコイドーシス
G 心アミロイドーシス
H 化学物質による心筋障害
I 心筋炎
J 心膜炎・心囊液貯留
K 心臓腫瘍
第8章 肺高血圧症
A 肺高血圧症の定義・分類・診断
B 肺動脈性肺高血圧症
C 左心性心疾患に伴う肺高血圧症
D 結合組織病に伴う肺高血圧症
E 慢性血栓塞栓性肺高血圧症
第9章 成人先天性心疾患
A 成人先天性心疾患の疫学と課題
B Fallot四徴症
C 心房中隔欠損症・卵円孔開存症
D 心室中隔欠損症
E 修正大血管転位
F Fontan循環
G 川崎病
H チアノーゼを呈する成人先天性心疾患
I 成人先天性心疾患患者の妊娠と出産
第10章 腫瘍循環器学
A 腫瘍循環器学の定義と課題
B がん治療関連による心機能障害・不整脈
C がん治療関連による血管障害
D がんに伴う血栓塞栓症
第11章 生活習慣と心疾患
A 2型糖尿病
B 高血圧
C 脂質異常症
D 現代人における栄養摂取の問題
E スポーツと心疾患
F 喫 煙
G 貧 血
H 心臓リハビリテーション
第12章 特定患者の心疾患
A 高齢者
B 女性と妊娠
C 循環器疾患を持つ非心臓手術患者の管理
第13章 他臓器疾患による心血管疾患
A 内分泌異常と心疾患
B 神経筋疾患と心疾患
C 自律神経と心疾患
D 凝固異常症
E 慢性腎臓病
第14章 診察と検査
A 病歴と身体診察
B 心電図
C 心エコー図
D 血管エコー
E 胸部単純X線
F MDCT
G 核医学検査・PET
H MRI
I カテーテル検査
J 冠動脈内画像診断法
K 心筋生検
L 心肺運動負荷試験
第15章 臨床研究を実施する
A 臨床研究の計画
B 臨床試験のエビデンスの解釈
索 引